2012年3月創業のシステム開発会社、「エボラブル アジア」は「ラボ型オフショア開発」というサービスを打ち出す。顧客企業のプロジェクトマネージャーが、現地で直接ベトナム人技術者のチームを率い、開発プロジェクトを進めるスタイルを採る。顧客ごとに、ベトナム人技術者を新たに採用することも特徴的だ。リクルートでの勤続経験を持つ大山智弘代表取締役社長に話を聞いた。

「ラボ型オフショア開発」の魅力は。

エボラブル アジア 代表取締役社長 大山智弘氏
エボラブル アジア 代表取締役社長 大山智弘氏

 顧客である日系企業から、プロジェクトマネージャー(PM)をベトナムに送り込んでもらい、ベトナム人技術者と開発チームを作る。オフショア開発における一番の問題点は、遠隔地同士でやり取りすることで発生するコミュニケーションロスにある。顧客自身に現地で指揮を取ってもらうことで、円滑にプロジェクトを進めることが可能だ。

 ただし、顧客企業向けに専属の開発チームを発足するサービスはほかにも存在する。当社のサービスが特徴的なのは、顧客の要望に合わせて、その都度技術者を新たに採用する点にある。

 まず、必要な技術者のスキルや人数といった、人材に関する要件定義を顧客と話し合う。その後、確定した人材定義に従って、ベトナムでの募集と一次面接までを当社で実施する。二次面接には、skypeなどを使って顧客企業にも参加してもらう。実際の開発プロジェクトでは、技術者の性格など、PMとの相性も重要になるからだ。

毎回、技術者を新規採用するのか。

 基本的にはそうだ。プロジェクト単位でオフショア開発を受託する場合、案件の増減に対応するために余剰人員を抱える必要がある。それはサービスの提供価格にも影響する。

 一方、当社のサービスは最短1年間の契約をお願いしており、契約期間中の増員には対応するが、減員することはお断りしている。こうすることで、専属の業務を長期間にわたって技術者に提供できるため、余剰人員を抱える必要がないというメリットがある。開発案件を継続的に抱える企業に向く。

技術者を採用するための工夫は。

 ベトナム人技術者の心理を刺激するような施策が重要だ。そのための人事制度を整えている。例えば、人事考課は1年に1回というのがベトナムでは一般的だが、当社は2回実施している。言い換えれば、昇給のチャンスが2回あるということだ。さらに分野ごとの業務経験や当社での勤続年数など、給与体系の指針を明確にしている。ベトナム人技術者は安心して、応募することができる。

 さらにベトナムの習慣に合わせて求人活動を展開している。一例だが、基本的にベトナムでは賞与支給は年に一回。賞与前の時期には技術者はあまり動かない。現地における求人市場の仕組みを理解した上で、タイムリーに求人広告などの施策を打つようにしている。

 社内紹介制度も準備している。当社の従業員が、知り合いの技術者を推薦する仕組みだ。スキルレベルや価値観の近い技術者が集まるため、採用に至る割合が高く効率的だ。毎月2~3人は、この制度を通して採用している。

従業員の転職対策は。

 先ほど話した人事制度以外にも、大事な点がある。会社の未来を語ることだ。私は三カ月に一度、全社員を集めて今後の経営方針を説明するようにしている。ベトナム人技術者は、企業がどのような経営ビジョンを描いているかを重視する傾向があるからだ。

今後の目標は。

 事業モデルの性質上、技術者の数が増えれば増えるほど、サービスが上手くいっている証拠だ。事業目標も、技術者の数を基準にする。

 当社は設立から1年弱で、100人強の技術者を採用することに成功した。その内の約7割がオフショア開発業務、残り3割がBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)業務に従事している。2013年中には合計で300人まで増員するつもりだ。現在の採用ペースに従うと、180~200人までは増やせる見込みだが、現状の成長スピードをさらに加速していく。