日経BPシステム運用ナレッジは2013年4月17日、「運用イニシアティブ宣言!“開発レス”時代に求められる『攻めの運用』とは」をテーマにパネルディスカッションを開催した。

 後半では、情報システムの課題に対するそれぞれの取り組みについて意見を交わし、「攻めの運用」につなげるにはどうすべきかを議論した。これまでは「受身的」といわれた運用部門だが、今では主体的になって課題解決を図ろうとする攻めの姿勢に変わろうとしている。

 前半に引き続き、司会は日経BPシステム運用ナレッジ編集長の森重和春。パネリストはユーザー企業からマネーパートナーズソリューションズの風間淳一郎氏と富士フイルムコンピューターシステムの柴田英樹氏が登壇。ITベンダーからアシストの蛯名裕史氏、TISの穴太隆氏が参加した。



森重:情報システムを取り巻く変化について聞いてきたが、従来のやり方が通用しなくなっているのか。

マネーパートナーズソリューションズの風間淳一郎氏
マネーパートナーズソリューションズの風間淳一郎氏
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風間:当社はマネーパートナーズという金融系のシステムのため、コンプライアンスが重要になっている。システムトラブルが発生したときの説明責任を果たすための資料が膨大になる。これが、結果的に運用部門の負担になっている。

 質を落とさず現状の陣容で行うためにそうした業務を見直したところ、作業手順書の作成部分に多くの手間がかかっていることが分かった。そこで、手順書の作成業務を自動化するなどして業務削減につなげた。少しの工夫や自動化で負担が軽くなっている。ミスも少なくなった。ちょっとしたことかもしれないが、多くの意見を取り入れ、今までのやり方や考え方を変えていこうという意識が強まっている。

森重:情報システムの運用の現場について取材すると、ルーチンワークが多いためか、「受身的」な感じがするが。

アシストの蛯名裕史氏
アシストの蛯名裕史氏
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蛯名:受身的というとあまりいい印象はないが、運用でルーチンワークを定常的に行っていると、受身的ととらえられやすい。ルーチンワークだと評価されにくい部分もある。情報システムは稼働して当たり前、サービスを提供して当たり前といわれやすいので、運用の業務がきちんと評価されていないかもしれない。

 今回のパネルディスカッションのテーマに「運用イニシアティブ」とあるが、自分たちがやっている業務をもっと訴えていくべきだろう。

 確かに環境変化に伴って業務が増えているが、自動化ツールを導入したり運用の業務プロセスを見直したりすることで変わってくる。そうしたことを対外的にアピールすることも必要だ。

森重:たとえ業務が増えてきても、受身的ではなく、主体的に新しいことに取り組んだり従来のやり方を見直したりして、課題の解決を運用の立場でリードしていくことが重要になってきた。そうしたことが「攻めの運用」につながるのではないか。

風間:私が考える「攻めの運用」とは、ユーザー部門と運用部門のどちらもメリットが得られる関係にすることだ。ユーザーだけ、運用部門だけがメリットを享受しても意味がない。

 当社の取り組みとしては、通常の運用リポートとは別に、ユーザー部門にアプリケーションのログを提供していることが挙げられる。どういったチャネルからのアクセスがあるかマーケティングや取引傾向の分析に使えるようにして、ユーザー部門がメリットを得られるようにした。一方で、運用部門は新しい自動化ツールを学んだり、支援ツールを学んだりして、知識を身に付けるようにしている。新しいことにどんどん挑戦している。

富士フイルムコンピューターシステムの柴田英樹氏
富士フイルムコンピューターシステムの柴田英樹氏
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柴田:当社は富士フイルムのシステム子会社として、情報システム部門の改革に取り組んできた。まずはサービスレベルの維持・向上を図りつつ、運用コストを削減できるようにした。さらに、上流工程を考慮できるスキルを持った人材も育成してきた。

 運用コストの削減では、アウトソーシングを活用した。だが、このままでは社内に運用のスキルが残らないのではないか、という心配があった。そこでスキルを残しながらもサービスレベルを下げないため、アウトソーシングサービス会社と品質についてサービスレベルの基準値を細かく決め、定常的に確認している。基準を下回れば、「なぜそうなったのか」とPDCA(プラン・ドゥ・チェック・アクション)のサイクルで考えていく。業務の「見える化」を推進することで、継続的に改善活動できるようになり、ユーザー部門にも満足してもらっている。また、改善依頼・評価・見積もりなどのコントロール機能は、社内に残している。

 単なるアウトソーシングだけでは「攻めの運用」とはいえないかもしれないが、見える化することでアウトソーシングサービス会社も含めて各部門がメリットを享受できる関係になり、改善活動などを議論できるようになる。こうした取り組みが攻めにつながると感じている。

蛯名:何かが起こってから対処するのではなく、積極的に運用プロセスの改善、自動化の推進を図ろうとするのが重要だ。

 それ以外にも、各企業の運用部門にはそれぞれ蓄えてきたナレッジがあるはず。そうした運用ナレッジがデータベース化されていないと、人材育成につながらないし、改善サイクルに乗っていかない。運用ナレッジをもっともっと活用することで、定常業務が効率化されるだろうし、新たな取り組みにつながる余裕もできる。運用ナレッジを活用することで、システム全体を俯瞰(ふかん)できるようになり、全体の視点での効率的な改善ポイントも見えてくるだろう。