写真●2013年4月に都内で開催された「シード・アーリースタートアップのためのウェブサービスを支える『利用規約』の基本」の会場風景
写真●2013年4月に都内で開催された「シード・アーリースタートアップのためのウェブサービスを支える『利用規約』の基本」の会場風景
[画像のクリックで拡大表示]

 「ウェブサービスの利用規約の作り方」という起業したてのベンチャーを対象にした2つのセミナーが、2013年1月と4月に相次いで東京都内で開かれた。双方を取材する機会があって訪ねてみると、いずれもジーンズ姿のスタートアップ関係者に混じって、スーツに身を包んだ大手IT企業の法務担当者の姿が目立った。

 実のところ2つのセミナーは、ITと企業法務という異なる分野の狭間で苦心を重ねてきた法務担当者らが、企業の壁を超えて悩みを共有する場でもあった。

 「利用規約」と聞くと、ウェブページの隅にリンクが貼られていて、試しに開いて読んでも堅苦しい文章ばかり、という印象しかないかもしれない。だが利用規約は、インターネットでビジネスを展開するには、まず最初に整えておかなければならないものだ。

 ITを使ったサービスは、社会に認められて初めて市場を開拓できる。企業法務は、ITを社会に適合させてビジネスを展開させていくのが役割だ。そこには、ITと企業法務の双方の知恵が欠かせない。とはいえ実際には両方に詳しい人材は少ない。2つのセミナーは、双方の融合を図るための、長い道のりへの一里塚のように思えた。

悩む大手IT企業の法務担当者

 セミナーの1つは、1月にミクシィ本社で開催されて約80人が集まった「利用規約ナイト vol.2」。30人ほどのベンチャー経営者を集めた2012年3月の第1弾セミナーが評判を呼び、その第2弾として開かれた。

 もう1つは、4月に都内で開催された「シード・アーリースタートアップのためのウェブサービスを支える『利用規約』の基本」で、こちらも100人近くが参加したという。いずれも主催者が驚くほど、大手企業の法務担当者らが集まった。

 なぜベンチャー向けのセミナーに、大手企業から法務担当者が集まるのか。「利用規約ナイト」の参加者の1人である大手電機メーカーの法務担当者に話を聞くと、背景が何となく分かってきた。

 この法務担当者は、ASPサービスのデータセンターで、顧客企業との契約内容を審査するのが仕事だという。これまでシステムエンジニアや営業担当者が獲得してきた契約を何度か途中で止めさせた経験があると明かす。

 例えば、ある契約は顧客企業が集めた個人情報を含むデータの処理を請け負い、それを第三者である別の企業に渡してしまうものだった。そのままでは情報提供者の同意を得ないまま個人情報を横流しするサービスに荷担することになり、個人情報保護法に違反する恐れがあった。

 エンジニアらにとっては、顧客企業が求めるまま技術的に可能と判断して獲得した契約だったのだろう。止められるとは夢にも思わず、サービス開始の直前になって法務担当に審査を依頼してきたという。この法務担当者は「受注してサービス開始が決まってから利用規約を作ってくれと言われると、止めるのもつらい」と振り返る。

 起業したてのベンチャーには、法務担当者どころか法的な問題を相談する相手がいない場合が多い。そのため2つのセミナーは、そうしたスタートアップを対象に、ビジネスモデルが適法かを確認するためには、早い段階での弁護士らへの相談が必要だと訴えるものだった。だが大手企業でも、法務のチェックは後回しにされやすい。

 本来は、システムの開発段階から法務担当者が関わる方が望ましい。その方が「サービスの問題点を洗い出せるメリットがある」(利用規約ナイトに登壇したArts and Law代表理事の水野祐弁護士)からだ。

 そのためにはエンジニアらと企業法務担当者が綿密に連携していなければならない。そこに、ベンチャーも大企業も同じ悩みがあるというわけだ。