先週、米証券取引委員会(SEC)が、上場企業が投資家向けに重要な情報を開示する手段としてFacebookやTwitterといったソーシャルメディアの使用を認める報告書を発表した。あまり話題になってはいないようだが、これにより少なくとも米国では、企業にとってのソーシャルメディアの位置付け、そして役割が大きく変わると考えられている。

 つまりこれまでの広告・宣伝的な側面、そして(見込み客を含む)顧客との関係の構築の側面、さらにサポートの側面に加え、IR(Investor Relations)までをもカバーするチャネルになる可能性が出てきたということだ。

 先日も触れたが、米国ではいわゆる「ソーシャルCEO」、つまりソーシャルメディアあるいはインターネットに積極的に顔の見えるコミュニケーションを取ろうとする最高経営責任者(CEO)、そして企業が増加している。実際SECは、2008年に企業サイトを投資家向けに重要な情報を開示する手段として(その重要情報がどこに掲載されているかを明確にさせることを条件に)認めるようになったが、今回はソーシャルメディアも同様の役割を果たすと解釈されるようになったということである。

 ここには以前から述べてきたように、ソーシャルメディアが広く普及し、ユーザー数が増え、さらにそれをうまく利活用する企業が増えてきたからという背景がある。こういった動きが進むほど企業は、ソーシャルメディアに対する姿勢や向き合い方、そしてオペレーションを含めた体制の組み方を問われるようになる。さらに運用にあたっては、効率化を手助けするツールの活用と、その機能などを改めて考えなくてはならなくなるだろう。

 もともと、SECが今回の報告書を発表することになったのは、オンラインDVDレンタル会社の米NetflixのCEOが個人のFacebookページに書き込んだ内容によって、同社の株価が急上昇したことがきっかけである。これまで、こういった情報は企業が発信するプレスリリースなどが中心だった。しかしソーシャルCEOによるソーシャルメディア上での投稿で株価が大きく変動する事象が発生したため、結果として具体的なガイドラインが必要となったという背景がある。

 Netflixの場合は、書き込みにより株価が上昇したが、もちろんその逆のケースも十分起こり得る。ソーシャルメディア上の投稿、そしてそこから発生するコミュニケーションが、ともすれば企業の株価までを左右する以上、社内でソーシャルメディアに向けた体制は今まで以上に整備されなくてはならないだろう。一方でステークホルダーの数も増えてくるので、その体制構築自体が非常に難しいものになってくるはずだ。

 米国の場合、ソーシャルCEOが先頭に立って社内のコンセンサスを作っていくケースが非常に多い。こういった形で全社的にソーシャルメディアに向き合っていくことが、日本でもそろそろ必要になっているのではないかと、改めて感じている。

熊村 剛輔(くまむら ごうすけ)
デジタル ストラテジスト
熊村 剛輔(くまむら ごうすけ)1974年生まれ。プロミュージシャンからエンジニア、プロダクトマネージャー、オンライン媒体編集長などを経て、マイクロソフトに入社。企業サイト運営とソーシャルメディアマーケティング戦略をリードする。その後広報代理店のリードデジタルストラテジストおよびアパレルブランドにおいて日本・韓国のデジタルマーケティングを統括。現在に至る。