野村総合研究所の都丸氏らが取り組むのが創造力の発揮である。何もないところから新しいものを生み出す。この創造力のベースには、洞察力や分析力、表現力などがある。

図1●保守の管理対象をモデル化した「エンハンスの卵」
図1●保守の管理対象をモデル化した「エンハンスの卵」
新規開発ではPMBOKなどの管理体系があるが、保守にはそうした体系がない。野村総合研究所の都丸岳行氏らは、運用・保守の現場が実践すべき八つの管理対象を「卵」になぞらえてモデル化した(黄身が「保守」で、白身が「管理対象」)
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 都丸氏が作り出した中で注目したいのは、保守(エンハンス)のマネジメント体系をモデル化した「エンハンスの卵」である(図1)。新規開発のマネジメント体系にはPMBOK(Project Management Body OfKnowledge)がある。これを保守向けに改良したのが、八つの管理対象を示したエンハンスの卵だ。

 「保守が卵の黄身で、管理対象がそれをぐるりと囲む白身を指す」と、都丸氏は説明する。品質管理やリソース管理、進捗管理に相当する開発管理はPMBOKにも存在する。ユニークなのは、ユーザー対応(管理)やパートナー対応(管理)など、ステークホルダー(利害関係者)に関する管理対象だろう。これらは最新のPMBOK第5版で新たに追加された領域だが、都丸氏は以前からその重要性に着目し、管理対象としてしっかりと盛り込んでいた。

 また、本番運用/環境管理は、安定稼働を責務とする運用フェーズだからこそ必要な管理対象である。業務改善管理と問い合わせ/テーマ管理は、利用部門に近い立場にある運用部門だからこそ求められる管理領域といえる。これら八つの対象について、計画し、実施し、差異を分析し、アクションを取る―という一連の管理プロセスを踏んでいる。

「障害件数」から「迷惑度」へ

 都丸氏はこのほかにも、ユーザー企業と共に、創造力を発揮させた取り組みを強めている。例えば、ある保険会社では、障害報告書に「障害件数」を記載するのではなく、独自の定量化指標を作り「迷惑度」によって分かりやすく品質を報告するようにした。迷惑度を考え出したのも、創造力がベースにある。

 別の運輸会社では、障害件数を減らして品質レベルを上げた後、“攻め”の運用への転換を図った。具体的には、創造力を働かせて主要システムにおける「画面の使い勝手向上」や「新規機能の追加」といった改修項目をリストアップ。それを定期的に利用部門に提示した。

 「ビジネスの視点に基づく改修提案は、利用部門にとってとてもありがたいもの。システムの価値を高めつつ利用部門から喜ばれるので、運用担当者の積極性も大きく高まった」(都丸氏)という。

 五つのシステム運用力を高め、運用現場が主役に立つ―。その時が、いま訪れたといえそうだ。