第一線のITエンジニアは、いったいどんなことにやりがいや喜びを感じているのか。また、具体的にどんな「志」を抱いているのか―。このパートでは、こうしたことをドキュメント形式で明らかにしていこう。 

 登場する7人は、いずれも各社を代表するトップITエンジニアである。とにかく元気かつ前向きで、はっきりとした志を持っている。しかし、今でこそトップITエンジニアとして活躍する7人も、かつては数々の苦労を経験してきた。特に、自分と合わない、あるいは未経験の仕事を前に、苦しさやつらさを味わった。それを突破した力こそが、まさに「志」だ。

 7人は口をそろえて、ITエンジニアという仕事が大好きだという。自分の成長を実感でき、チャンスもあふれている。大きな達成感や充実感を得られる上に、多くの人の役に立ち、社会や世界を変えられるという。7人のキャリアや苦労、突破する原動力、そして志から「だからITエンジニアはやめられない」という理由をつかんでほしい。

 Part1ではまず、富士通、丸紅情報システムズ、野村総合研究所を代表するトップITエンジニア3人が登場する。

ITで世界を変えたい

富士通 澤野 桂伸 氏
富士通 澤野 桂伸 氏

 君に、東京証券取引所のシステム刷新を託したいんだ―。28歳(当時)の富士通、澤野桂伸氏(金融ソリューションビジネスグループ 保険証券ソリューション事業本部)が、社内の幹部からこう告げられたのは、2006年のことだ。

 証券会社向けシステムのITエンジニアとして経験を積んだ澤野氏。学生時代は経営工学やAI(人工知能)を学んだ。いつもやる気にあふれ、社内でも目立つ存在だった。とはいえ、社運をかけた大規模プロジェクトの筆頭に、澤野氏のような若手エンジニアが抜擢されるケースは業界でも極めて異例である。社内でも、反対する意見が一部から上がっていた。

 「断るという選択肢はあるのですか」。責任の重さにさすがに戸惑った澤野氏が幹部に尋ねると「基本的にない」とあっさり言われた。当時、富士通が関わったシステムにトラブルが続き、社内には若手急先鋒の澤野氏を起用し、イメージを一新したいという思惑があった。