世界と日本のCIOが重視するIT戦略の順位
世界と日本のCIOが重視するIT戦略の順位
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 ガートナーは2012年9月から12月にかけて、CIOの課題について調査(CIOアジェンダ サーベイ)を行い、世界の2053社から回答を得た。今回からこの結果について考えてみたい。

 下の表に示したのは、世界のCIOと日本のCIOが重視するIT戦略の順位だ。「ITマネジメントとITガバナンスの改善」や「IT組織とワークフォース(要因)の改善」は日本でも世界でも上位に挙げられている。一方、世界のCIOが最も重視していた「ビジネス・ソリューションの提供」は日本では10位以下のランキング圏外となり、世界と日本のCIOの認識に差が見られた。

 これをもって、「日本のCIO(ならびにIT部門)は世界に比べ、ビジネスへの貢献意識が低い」とする見方もあるだろう。ただし私は必ずしもそうは見ていない。要は時間差の問題だ。

 事業プロセスがデジタル化する、いわゆる「ビジネス・デジタライゼーション」の進展が言われるが、海外、特に米国に比べると日本ではまだそうした動きは鈍い。競争力の源泉は商品やサービスの質にあると考える経営者はまだまだ多く、先端的なIT技術の導入においても米国にリードされている。米国並みに、事業におけるITの重要性が高まるのは1、2年先の話になるかもしれない。

 とはいえ、今すぐにでも日本のCIOが取り組むべき課題がある。それは予算の確保だ。

 多くの日本企業では、この10年間、既存システムのランニングコストを下げることに注力してきた。IT機器の価格下落の恩恵をこうむれるようなプラットフォームに載せ変え、開発や運用を効率化し、外部にアウトソースする。そうした取り組みでランニングコストを下げ、そこから新規投資の予算を捻出してきたというのが実情ではないだろうか。そしてその多くは、会計や人事などバックオフィス業務を対象にしたものだった。

 しかしこれから取り組むのはそうしたシステムではない。新しいビジネスを立ち上げたり、既存のコアビジネスをデジタライズしたりすることで、売り上げや利益を伸ばす。そうした戦略的課題に取り組むに当たっては、これまでのように「やりくり」で原資を捻出するという考え方は限界が見えているのではないか。ビジネスのやり方を抜本的に変えること、あるいは、成長に直接貢献することを目的とするのだから、そのための新たな投資枠が必要になる。その予算の確保にメドをつけなくてはいけない。

 まずはトップマネジメントに理解してもらうこと、いいかえるとトップマネジメントを教育する必要があるが、これはなかなかの難題だ。ITとビジネスの戦略的関係を整理して正しく理解してもらう能力が問われるところだ。

 投資対効果の計測、費用の扱いにも検討が必要だ。事業に直結するIT投資、あるいはデジタライゼーションへの戦略投資では、従来のバック・オフィスを中心とした効率化投資とは評価指標を変える必要がある。IT部門の成果を把握する新たな手法も求められるだろう。

 これらは決して簡単な課題ではない。今までCIOやIT部門が先送りしてきた課題でもある。そこに取り組むには、2013年というタイミングはちょうどいいのではないだろうか。まだ全く見えない未来の話だと、トップマネジメントや事業部門は全く理解できない。ある程度の将来像が見え、かつそれなりの時間がまだ残されているのが一番いい。仕掛けるタイミングは今なのだ。

 それができなければどうなるか。IT部門は企業において戦略的な価値が無くなり、危機にさらされることになる。次回はCIOとIT部門に迫る「静かなる危機」について述べたい。

長谷島 眞時(はせじま・しんじ)
ガートナー ジャパン エグゼクティブ プログラム グループ バイス プレジデント エグゼクティブ パートナー
元ソニーCIO
長谷島 眞時(はせじま・しんじ)1976年 ソニー入社。ブロードバンド ネットワークセンター e-システムソリューション部門の部門長を経て、2004年にCIO (最高情報責任者) 兼ソニーグローバルソリューションズ代表取締役社長 CEOに就任。ビジネス・トランスフォーメーション/ISセンター長を経て、2008年6月ソニー業務執行役員シニアバイスプレジデントに就任した後、2012年2月に退任。2012年3月より現職。2012年9月号から12月号まで日経情報ストラテジーで「誰も言わないCIOの本音」を連載。