京都と言えば、毎年、国内・国外から5000万人以上の観光客が訪れる世界でも有数の観光都市である。一方、京都には世界に通用する製造業が大小合わせて5000社以上あり、国内外のものづくりを支えている。その中で、今回は、“板金コンシェルジュ”というユニークな戦略で成長を続け、経済産業省が主催する「中小企業IT経営力大賞2013」において優秀賞を受賞した広瀬製作所のIT経営への取り組みと、同社を支援したITコーディネータの仕事を紹介する。

板金コンシェルジェ戦略を実現するための経営課題とは

 広瀬製作所は1949年に、創業者の広瀬太郎(現社長の父)が京都市上京区においてプレス加工機1台で創業し、大手電機メーカーの下請けとして電機部品などの工業製品を製造していた。その後、得意先からの要請もあり精密板金加工へと業態変化していくが、“板金コンシェルジェ”を支えるのが、創業当初から培ったプレス技術なのである。板金コンシェルジェ戦略とは、難易度が高い板金試作の相談を受けた場合、同社が得意とするプレス加工技術を活用し独自の簡易金型で板金試作品を作り、そこから量産に移行するというビジネスモデルである。

 一般的に試作品は量産と違い難しい加工があるため試行錯誤を繰り返しながら、得意先の要望を満たす部品を作り上げる(写真1、2)。そのためには、卓越した技術・技能が必要であると共に、試行錯誤するための時間の確保も重要である。しかし、多いときには量産品の受注が1日200点以上のときもあり、受注から生産計画(作業手順)、製造指示、出荷までのほとんどを手作業で行っていた同社にとって、試行錯誤の時間確保が大きな経営課題であった。

写真1●板金試作品その1。R形状が5つある製品。よく見ると製品の端が折り返されている
写真1●板金試作品その1。R形状が5つある製品。よく見ると製品の端が折り返されている
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写真2●板金試作品その2。左の製品を一度の工程で加工するための簡易金型。金型製作は3時間ほどで完了
写真2●板金試作品その2。左の製品を一度の工程で加工するための簡易金型。金型製作は3時間ほどで完了
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 そんなとき、2011年8月に公益財団法人京都産業21が実施したIT経営力向上研修会の講師をしていたITコーディネータの坂田岳史氏と知り合い、その指導を受けて、全社的な合理化を図り板金コンシェルジュ戦略を実現するためのIT経営に取り組くんだのである。

 そのIT経営の内容は、ITを活用し受注から生産計画(作業手順)作成、作業指示発行、進捗管理、出荷、外注管理、在庫管理の一連の生産活動のムリ・ムダ・ムラを省き、現場の作業効率を向上させ試作品製作の時間を確保することである。つまり、コンピュータでやれることはコンピュータでやり、人間にしかできないことに注力するという戦略である。