かつての日本の製造業は、「カンバン方式」など独創的な手法や製品を生み出し、海外企業の手本にもなってきた。しかし、現在では「ものづくり」という言葉が、顧客起点で革新的な製品を生み出せない言い訳に使われているようにも思える。

 本書が説く「ステージゲート法」は、顧客や市場の視点に立った「大胆なイノベーション」を、企業の組織的な活動の中から生み出すための経営管理手法である。米P&Gや米3M、米コーニングなど主に欧米の製造業が1990年代から導入し、成果を生んできた。この手法を使った場合では、使わない場合に比べて新製品の売上高と利益の目標達成率が2倍に、新製品の売上高に占める比率が6倍に高まったという。本書は豊富な事例や具体的な統計の裏付けを示しながら、手法の実践方法を詳しく解説している。

 具体的には、プロジェクトを「(顧客や市場の)発見」から「市場投入」まで五つのステージに分け、次段階に進むための四つの評価(ゲート)と組み合わせてプロセスを管理する。この手法が興味深いのが、適応範囲の広さである。非常にシンプルな方法論なので、他の業種や製品開発以外の分野への応用が容易なのだ。当初は製造業が新製品開発をマネジメントするための手法だったが、サービス業などを含む採用企業が手法を改変し、現在も発展拡大が続いている。

 例えば、政府案件のようなRFP(提案依頼書)に基づくプロジェクトや、生産プラントのような投資型プロジェクト、外部の資源を活用するオープン・イノベーション、極めて短期間のプロジェクトなどに応用できるという。事例から判断すると、一般企業のシステム構築やITベンダーによる新技術や製品開発、受託開発のプロジェクトマネジメントなど、IT分野でも大いに活用できるはずである。IT部門を起点にしたビジネス・イノベーションや世界で戦えるIT製品やITサービスの開発に本手法を応用する日本企業が多く現れることに期待したい。

 評者 甲元 宏明
大手製造業でシステム開発やIT戦略立案に携わり、2007年アイ・ティ・アール入社。シニア・アナリストとしてユーザー企業やITベンダーの戦略立案を指南する。
ステージゲート法


ステージゲート法
ロバート・G・クーパー 著
浪江 一公 訳
英治出版発行
3990円(税込)