誤発注裁判が改めて問う「バグは重過失か」

 「東京証券取引所に重大な落ち度があることは、火を見るより明らかです」。2013年3月18日、東京高等裁判所での第一回口頭弁論。みずほ証券の代理人である岩倉正和弁護士は、東証の株式売買システムに潜んでいた誤発注を取り消せないバグの概要を説明する大型パネルを法廷内に持ち込み、25分にわたって熱弁を振るった。

 対する東証代理人の山田和彦弁護士は終始落ち着いた口調で「合理的信頼性を有するシステムを提供できていれば、たとえバグが一つあったとしても、債務不履行には当たりません」と述べ、13分ほどで弁論を終えた。同日、裁判は結審した。

 みずほ証券と東証による株誤発注裁判の控訴審は、両社がソフトウエア工学上の論争を戦わせる異例の展開になった(図1)。

図1●誤発注裁判の控訴審における、みずほ証券と東京証券取引所の主張<br>公開されたソースコードをめぐり、ソフトウエア工学上の争いに発展している。
図1●誤発注裁判の控訴審における、みずほ証券と東京証券取引所の主張
公開されたソースコードをめぐり、ソフトウエア工学上の争いに発展している。
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 きっかけは、東京高裁が2012年初頭に、バグの原因となったプログラムのソースコードの開示を東証に勧告したことである。

 第一審でもみずほ証券はソースコードの開示を要求していたが、東京地方裁判所は「開示の必要はない」としていた。ソースコードが法廷で議論になった例は「少なくとも国内では聞いたことがない」(複数の弁護士)。

 みずほ証券はこのコードを解析した上で、「バグは容易に回避できたし、テストで容易に発見もできた」として、東証に重過失があったと主張した。これをきっかけに、双方がソフトウエア工学の専門家を引っ張り出し、意見書や「準備書面」を通じて応酬した。

 この論争が根本的に問いかけているのは一つ。ソフトウエアのバグを「重過失」と認定することは可能か、ということだ。今後、判決の中身によっては、日本のシステム開発のあり方に大きなインパクトを与える可能性が出てきた。