前回に続いて、今回もウェーバー・シャンドウィック社のストラテジストであるレスリー・ゲインズ―ロス氏との会談に基づいた話を紹介する。レスリー・ゲインズ―ロス氏がまとめた「第2回ソーシャルCEO調査」とは少し離れるが、同氏と話をして改めて感じたことを書き記しておこう。

 前回の記事で書いたように、レスリー・ゲインズ―ロス氏は、特にアメリカにおいてCEOを「企業の顔」と明確に位置付けて積極的に顔の見えるコミュニケーションを展開されている背景として、「CEOによって企業そのものの評判が左右されることも少なくない」という点、さらに「2001年9月11日を境に企業が積極的にオンラインを使って情報を公開するという意識が強くなった」という点を指摘した。

 だが、「企業の顔」を明確にすることには、もう一点重要な理由があるとしている。それは「優秀な人材の獲得」だ。

企業文化を発信することが優秀な人材の確保につながる

 企業のCEOが“ソーシャルCEO”になることでもたらされる効果として、その企業のレピュテーション(評判)の向上だけではなく、優秀な人材を確保できる機会が向上することも考えられている。そのため“ソーシャルCEO”、いや“ソーシャルCEOのいる企業”はLinkedInの活用を非常に重要視しているらしい。

 近年ソーシャルメディアのユーザー数の向上を受け、ソーシャルメディア活用を戦略の中核に置くのは広告宣伝、マーケティング、広報に関係する部門ばかりではなくなってきている。この流れは最近、海外において顕著に見られるようになっている。特に人事関連部門においてが、企業の競合優位性を保つために、ソーシャルメディア活用の必要が問われているケースが徐々に増えてきているらしい。

 確かに、LinkedInを調べてみると、すぐにわかるが、LinkedInに対する企業の情報公開は非常に積極的なものになっている。そして、その際にCEO、もとい「企業の顔」を、どれだけきちんと見せていくことができるかがポイントになっている。

 CEOの顔写真だけではなく、これまでのキャリアなども含めて「ソーシャル」なものにしていくことで、より顔の見えるコミュニケーションを構築していくことができる。それだけではない。優秀というだけではなく、企業文化、ビジネスの方針や方向性などを、ある程度理解してもらった上で、そこに対して共感している候補者を集めるということができるようになる。

 特に企業は、人材を採用するにあたって、その人材が企業文化に溶け込めるか、そして求める資質をきちんと有しているかということを念入りに確かめている(そのために面接だけに限らず、様々な方法を用いて候補者を選考している)。それを効果的に行うためにも、まず自分たちが積極的に情報を公開し、顔の見えるコミュニケーションを取るということが重要になっているようだ。

 日本における企業のソーシャルメディア活用を見てみると、どうしても広告宣伝、マーケティング、広報による情報発信(および、その先の拡散)を重視することばかりが先行しており、なかなか人事面、とくに優秀かつ自分たちの企業にマッチする人材を効果的、効率的に採用する方向には向いていない。もちろん今後は、その状況は変わってくるだろうが、そのためにはある程度の時間を要することになる。まずは自分たちの企業に「顔を持たせる」ということ、つまり“ソーシャルCEO”による顔の見えるコミュニケーションから始めてみるのもよいだろう。

熊村 剛輔(くまむら ごうすけ)
デジタル ストラテジスト
熊村 剛輔(くまむら ごうすけ)1974年生まれ。プロミュージシャンからエンジニア、プロダクトマネージャー、オンライン媒体編集長などを経て、マイクロソフトに入社。企業サイト運営とソーシャルメディアマーケティング戦略をリードする。その後広報代理店のリードデジタルストラテジストおよびアパレルブランドにおいて日本・韓国のデジタルマーケティングを統括。現在に至る。