中国の湖北省武漢市は北京~深セン間の南北新幹線と上海~重慶間の東西新幹線が交差する華中の主要都市で、交通の要所として古くから栄えてきた。中国では「副省級市」と呼ばれ、経済・財政・法制の各面で省と同程度の自主権が認められた都市が全国に15ある。武漢は、その一つに指定されている。

中国内陸部の産業と交通の要衝「武漢」、企業進出にわくもインフラ面に課題

 人口は約1000万人。「中国3大かまど」と呼ばれ、酷暑で有名だが、季節による寒暖の差が激しい。日本との関係も深く、1972年の日中国交正常化で日本から贈られた桜が植樹されている。毎年春になるとソメイヨシノをはじめ、山桜、垂れ桜、雲南桜といった4系列、数十種類の桜が花を咲かせ、市民を楽しませている。友好都市となっている大分市との交流も盛んだ。

 人材育成にも力を入れる。85の大学で118万人の学生が勉学に励んでおり、上海・北京・広州など沿岸部の大都市への貴重な人材供給源となっている。最近では開発区やソフトウエアパークなどを新設し、企業の誘致や雇用機会の拡大に努めている。中国大手の鉄鋼企業や自動車企業が本社を置くほか、日系や欧米の企業も既に多数進出しており、今後も加速していくとみられる。今や世界一の販売市場となった自動車産業に加え、サービス業や小売業の進出も目立つようになってきた。 機器の真贋チェックも必要

 インフラ面ではまだ課題を残す。中国では、沿岸部の大都市でもサーバーやルーターなどIT機器の調達や構築、保守の確保が難しいというのが実情。国内外の拠点間を結ぶ通信回線は開通が大幅に遅れることが多く、品質も安定していない。企業のICT環境の構築・運用という面では苦労が絶えない。

 この状況は内陸部になると、さらにひどくなる。まず調達したIT機器の真贋チェックが不可欠。優秀な人材は沿岸部の大都市へ流出してしまうため、システム設計や機器設定の不備も多い。現地進出の企業からは「効果の出ないIT投資が多く、非常に困っている」との声をよく聞く。オフィスや工場の新設に伴う各種申請の許認可が滞ったり、大きな電流を使う強電設備や通信基盤の準備が遅れたりして、予定の期日に開業できなかった会社も珍しくない。

 そこで当社は2010年2月に武漢事務所を開設し、企業の現地進出を支援している。オフィス環境の整備から、クラウドサービスを活用したIT基盤や通信網の構築と運用保守まで幅広く展開中だ。前述の問題に対しても、沿岸部の大都市で機器を集中購買したり、現地スタッフの教育を強化したりして対処している。企業の事業活動において課題の多い武漢だが、製造拠点としての価値は誰もが認めるところ。武漢の美しい桜を楽しむ日本人が年々増えていくと思うと楽しみである。

香川 友志(かがわ ともゆき)
NTTコミュニケーションズチャイナ 武漢事務所 副所長。武漢をはじめとする内陸地域から華南地域までを連日飛び回り、企業のオフィスや工場のICT環境の整備をサポートする。最近多い案件はセキュリティや仮想化、シンクライアント。趣味は旅行とカメラで、中国で訪れた都市・名所は100カ所を超える。おかげで未踏の旅行先が減ってきたことが悩み。