コンシューマサービスを展開するネット企業にとって、顧客の情報をどのように活用するかは、ビジネス戦略において死活的に重要である。一方で、活用の仕方を間違えれば、顧客が意図しない形で情報が流通してしまい、深刻なプライバシー侵害を引き起こしてしまう。

 こうしたユーザー情報の適切な扱いを助けるのが、「アイデンティティ(ID)技術」と呼ばれるものだ。「インターネット経由でユーザーを認証する」「他サービスのIDで自社サービスにログインする」「企業間でユーザー情報を連携させる」といった機能を担う。

 OpenIDファウンデーション・ジャパンと国立情報学研究所は2013年3月4日~5日、アイデンティティ技術のカンファレンス「Japan Identity & Cloud Summit 2013(JICS 2013)」を開催した。本連載では、JICS 2013の中で注目度の高かったテーマ、すなわちネット企業のID戦略、最新のアイデンティティ技術動向、クラウドID連携、国民IDやプライバシーなどのトピックについて、数回に渡って紹介する。

 1回目は、米グーグル、ヤフー、楽天、ディー・エヌ・エー(DeNA)、KDDIのID戦略を取り上げる。数千万~数億という膨大な顧客IDを擁する国内外の企業が、アイデンティティ技術をどのように活用し、ビジネス戦略に生かしているのか、JICS2013の各セッションからキーパーソンの発言を抜粋して報告する。

米グーグル「『ID連携』の技術に注力」

写真1●米グーグルのディベロッパー・アドボケイト ティム・ブレイ氏
写真1●米グーグルのディベロッパー・アドボケイト ティム・ブレイ氏
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 「コストが掛かり危険なユーザーIDとパスワードを各々のサービスで利用するのは、もうやめよう!」

 JICS2013の基調講演でこう呼びかけたのが、グーグル ディベロッパー・アドボケイトのティム・ブレイ氏である(写真1)。ブレイ氏というと、最近ではAndroidプラットフォームのエバンジェリストとして有名だが、今回はグーグルのアイデンティティおよび認証に関する担当者として登壇した。

 ブレイ氏によると、グーグルのすべてのサービスにおいて、アイデンティティ、つまりユーザー1人ひとりの情報の重要度は日に日に増しているという。「グーグルは、利用者が何を求めているのかにもっと耳を傾けたいと考えている。例えば、どの利用者が何を求めてサーチしているかが分かれば、検索結果の質はこれまで以上に良くなる」(同氏)。

 昨今、グーグルがソーシャル分野へ巨額な投資を行っているのも、同社がアイデンティティを重要視している現れだという。「アイデンティティが複数組み合わさることで、ソーシャルが生まれる。グーグルは、人々のアイデンティティの関係性についてのモデルを作ることで、インターネットの可能性をより高めることができると信じている」(同氏)。

 その一方でブレイ氏は、ユーザー認証を中心に、今のアイデンティティ技術が大きな問題を抱えていると指摘した。「モバイルがインターネット・トラフィックの主流になる日は近いが、スマートフォンからユーザーIDとパスワードを入力するのは、とても面倒だ。皆が入力しやすい短いパスワードを設定したがるため、セキュリティ上の問題が生まれる」(ブレイ氏)とした。