今回の投稿では、ブランク氏自身の失敗が紹介されています。失敗した際に通過するプロセスを6段階に分類し、そのときに何をしていたのか分析しています。この洞察こそが、次の成功に結び付く最初のステップだと解説しています。(ITpro)

 私たちは、創業者に向けて「スタートアップを成功させるには何をすべきか」というテーマで助言を与えていますが、失敗に対してどのように対処すべきかについては、ほとんど助言していません。

 そこで、私はこのような助言をしたいと思います。

 私の経験上、以下のように、失敗した際に通過する6つの段階があります。

第1段階:衝撃と驚き
第2段階:否定
第3段階:怒りと非難
第4段階:鬱状態
第5段階:受容
第6段階:洞察と変貌

 私は、失敗した数社のスタートアップ企業に参画したことがありましたが、失敗の全責任を負った企業はロケットサイエンス・ゲームでした。私の名刺には、CEOと印刷されていました。その時に私はこの6段階を経験し、それを経たときには生まれ変わった人間になりました。

第1段階:衝撃と驚き

写真●Wiredの表紙を飾る
写真●Wiredの表紙を飾る

 私たちは、3500万ドル(約33億円)の資金を調達し、18カ月後に雑誌「Wired」の表紙に掲載されました(写真)。(訳者注:Wiredはネットバブル時期に最も人気のあったインターネット業界誌)

 マスコミは、ロケットサイエンスがシリコンバレーで最も注目されている会社の1つで、 絵コンテと予告編は驚異的な面白さなので、私たちのゲームは素晴らしいものになるだろうと予想しました。

 しかし90日後に分かったのは、私たちのゲームは最悪で、誰もそれを買うことはなく、優秀なエンジニアたちが辞任し始め、120人の従業員数を抱えた現金消費率は巨大で、現金は底を尽きつつあり、会社は破産寸前になったことでした。こんなことが、私に起こるはずは無い――。

第2段階:どの問題も、自分の責任ではないという否定

 投資家が期待した全てのことは成し遂げたと、私は内心信じていました。私は多額の資金を集め、多くの媒体に掲載されました。私は、自分たちの計画通りに従業員を雇いました。他の人たちが混乱したに違いない。私は全て正しいことをしたのです。

第3段階:怒りと他人への非難

 「この問題は、ゲーム開発の責任者である共同創業者の責任に違いない。私に造反したエンジニアたちのせいである。私に、そのゲームがどれほど劣悪なのか報告しなかった営業とマーケティングが悪い。追加投資を拒否したベンチャー・キャピタリスト(VC)たちのせいだ。劣悪なゲーム機を開発したセガの責任」――。

第4段階:鬱に陥る

 不可避性と失敗の大きさが身に沁みて分かったとき、私は長時間寝ました。朝遅く起き、再び夕方5時に寝てしまう日もありました。私が過去にかかわった産業に関する全てに興味を失いました。(いまだに、私はビデオゲームを手に取ることができません)

第5段階:失敗の原因となった自分の責任を徐々に受け入れる

 私が辞任した2~3週間後、私は何をすべきで、何ができたのか、どうしてそれをしなかったのかを考え始めました。「人の意見を聞かなかった、行動しなかった、CEOとしての責務を果たさなかった、やるべきことをやるか、辞任するかの選択ができなかった」――。

 これを悟る過程は難しく、一晩で分かったことはありません。素晴らしいパートナーだったのは、私の妻でした。私はたびたび第2段階と第3段階に逆戻りしましたが、時間と共にこの崩壊の主役は私自身だったと悟りました。

第6段階:洞察を得て、自分の態度を変容させる

 これが一番難しいステージです。他人に責任を転嫁することは止めましたが、私の態度をどう変えればよいのかを理解するのに、長い時間かかりました。過去を忘れ、前に進むだけだったらもっと簡単だったのでしょうが、私は次のスタートアップを成功させるための教訓を探していました。

 私は、直近の会社だけでなく、今まで全ての職歴にわたる私の態度のパターンを見直しました。私は自分の傲慢さを抑え、他の優秀な人たちが私の下で働いているのではなく一緒に働いているのだということを覚え、他人の意見を良く聞き、私にこうしてほしいと考える他人の意見に振り回されず、正しい行いで物事を実行するということを学びました。

エピローグ

 次のスタートアップにおいて、私はロケットサイエンスを断崖に追いやったときの態度を見せないようにしました。協力して働ける創業者チームを形成したのです。私と共同創業者は、会社を拡張し繰り返しできる状態まで育成し、会社経営に長けたCEOを雇い、2社の主要投資家に10億ドル(約950億円)の運用益をもたらしました。

 そして今、会社を失敗させてしまった起業家の話を聞くと、私は彼らの失敗と復活の話に耳を傾けるようにしています。

学んだこと
・失敗と復活のプロセスには6段階あります
・第2~第4の段階にとどまらない
・自身の責務から逃げ出さない
・自身を洞察して態度を変える。その上で、次の機会には違う方法をとるという挑戦を自分自身に課してください

2013年2月26日オリジナル版投稿、翻訳:山本雄洋、木村寛子)

スティーブ・ブランク
スティーブ・ブランク  シリコンバレーで8社のハイテク関連のスタートアップ企業に従事し、現在はカリフォルニア大学バークレー校やスタンフォード大学などの大学および大学院でアントレプレナーシップを教える。ここ数年は、顧客開発モデルに基づいたブログをほぼ毎週1回のペースで更新、多くの起業家やベンチャーキャピタリストの拠り所になっている。
 著書に、スタートアップ企業を構築するための「The Four Steps to the Epiphany」(邦題「アントレプレナーの教科書新規事業を成功させる4つのステップ」、2009年5月、翔泳社発行)、「Startup Owner's Manual」(邦題「スタートアップ・マニュアル」、2012年11月、翔泳社発行)がある。