日経SYSTEMS1月号の特集記事「私がITエンジニアである理由」でも触れられていたが、ITエンジニアという職種は非常に多様である。大きく分けても、受託開発で業務分析や設計を行うシステムズエンジニア、インフラ基盤などを担当するハードウエア系のエンジニア、ネットワークエンジニア、プログラマ、プロジェクトマネジャー、ITアーキテクトなどがある。専門分野となるとさらに細かく分類される。

 ITエンジニアであれば職種や専門性の違いは分かるし、とても一人でシステム開発の全領域をカバーできないことも知っている。ところが、ユーザーも同じように理解していると思ってはいけない。ユーザーといってもいろいろなので、ここでは二つのタイプを挙げてみよう。(1)ITに詳しくないタイプと、(2)ITに強いと自負しているタイプである。

 タイプ(1)のユーザーは「ITのことは全く分からないので、よろしく頼む」というのが口癖だ。「ITエンジニアはITにかかわることは何でも知っている」と考えており、基本的に「システム開発のことはITエンジニアにお任せしたい」という姿勢である。

 実力があるITエンジニアにとっては仕事がやりやすいタイプだが、経験が乏しい若手には荷が重いともいえる。システム開発のことを知らないだけに、例えばアーキテクチャーの変更が伴うような慎重に答えるべきリクエストを受けたとき、「その点は後日、担当から説明させてください」などと答えると、「なぜ今、あなたが答えないんだ?」と不信感を持たれることがある。ITエンジニアはシステム開発のすべてを知っていると思っているので、答えないと「本当にプロなのか?」と一気に評価を下げられてしまうのだ。

 一方、タイプ(2)のユーザーは、うまく協力体制を組めると強力な援軍となってくれるが、下手を打つと非常にやっかいな「難敵」となってしまう。ITエンジニアの調査が甘かったり、議論になった時に適切に答えられなかったりするとアウトである。「このエンジニアは大丈夫か?何も知らないし、言うことや出してくる資料が信用できない。一緒に仕事をすることができない」と判断されてしまう。

 上記二つのケースには反論があろう。しかし、ITエンジニア同士であれば通じる理屈も、ユーザー相手では通じないと覚悟すべきだ。ユーザーの過大な期待に応えることは簡単ではないが、プロである以上、応えられるように努力していくべきだ。

 では、どうしたらいいのだろうか。一つは、広く多様な分野の知識を身につけ、各分野の知識を「つなげる」ことだと思う。タイプ(2)のユーザーであっても知識が「点」でしかなく、つながっていないことが多い。プロだからこそつなげることができ、そうなればタイプ(2)のユーザーにも信頼してもらえるようになる。

 もう一つは得意分野を作ることだ。ただし、その分野では誰もが一目置くくらいでなければならない。得意分野で大きな信頼を勝ち取れば、違う分野に関して「私の専門外です」と開き直っても周囲が納得するようになる。ある意味、そうなってこそITエンジニアとして一人前といえるかもしれない。

永井 昭弘(ながい あきひろ)
イントリーグ代表取締役社長兼CEO、NPO法人全国異業種グループネットワークフォーラム(INF)副理事長。日本IBMの金融担当SEを経て、ベンチャー系ITコンサルのイントリーグに参画、96年社長に就任。多数のIT案件のコーディネーションおよびコンサルティング、RFP作成支援などを手掛ける。著書に「RFP&提案書完全マニュアル」「事例で学ぶRFP作成術 実践マニュアル」(共に日経BP社)など