「サーバーはもう、一切購入していない。新規システムは全て、『Amazon Web Services(AWS)』上に構築する。既存システムもハードの保守が切れたものから順次、AWSに移行する」(東急ハンズの長谷川秀樹執行役員)。

 情報システムを構築する際に、パブリッククラウドを第一の選択肢とする。そんな「クラウドファースト」を実践するユーザー企業が、日本で増えている。

 JPメディアダイレクト、TOTO、あきんどスシロー、アプリボット、ガリバーインターナショナル、ケンコーコム、コクヨ、東急ハンズ、日本瓦斯、ミサワホーム、ユー・エム・シー(UMC)・エレクトロニクス─。本誌の取材によって、これだけ多くの企業が、クラウドファーストを実践していることが分かった。

 今、クラウドファーストが増えている背景には、二つの大きな変化があった(図1)。

図1●様変わりしたパブリッククラウドを巡る情勢
少数の企業が特殊な用途で利用するに過ぎなかったパブリッククラウドが、2013年の今は、一般の企業がありふれた用途で利用する存在になった。
図1●様変わりしたパブリッククラウドを巡る情勢<br>少数の企業が特殊な用途で利用するに過ぎなかったパブリッククラウドが、2013年の今は、一般の企業がありふれた用途で利用する存在になった。
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 一つめは、供給側の変化である。かつてパブリッククラウドのサービス提供事業者といえば、米国ベンダーが中心で、サービスは日本国外のデータセンター(DC)から提供されるのが一般的だった。それが今では、様々な国内ベンダーがクラウド市場に参入し、米国ベンダーも国内のDCからサービスを提供するようになった。

 全業務システムのAWSへの移行を進めているガリバーインターナショナルの椛田泰行クラウドプロジェクトリーダーは、「AWSを使うようになったのは、国内でDCを運営する東京リージョンができ、管理ツールなども日本語化されたからだ」と語る。

 技術面での進歩も大きい。以前のIaaS(インフラストラクチャー・アズ・ア・サービス)では、限られた種類のOSやミドルウエアしか利用できなかった。現在は、様々なパッケージベンダーによるIaaSのサポートが進んでいる。2012年には、ERP(統合基幹業務システム)最大手の独SAPが、「SAP ERP」などの実行環境として、AWSをサポートした。

 パッケージベンダーのサポートによって、ユーザー企業にとってクラウドを利用するハードルは大きく下がった。2012年9月からERPの「SAP Business All-in-One」をAWSで稼働し始めたUMCエレクトロニクスの須藤健情報システムグループ課長は、「SAPジャパンからAWSを勧められたのが、AWSを採用した理由」と証言する。クラウドはユーザー企業にとって、「特別な努力」無しに使える存在になった。