本書の原題は「セクシー・リトル・ナンバーズ」。ビッグデータがこれだけ騒がれているタイミングで、あえて「リトルデータ」という言葉を持ち出し、既に手元にあるデータにこそ目を向けて、足元を固めよというメッセージを投げかけているのが、まず面白い。私も大いに賛成だ。

 しかも、ただのリトルデータではない。セクシーな(魅力的な)リトルデータの活用である。このタイトルだけで、興味をそそられる。

 日本語訳の本書タイトルにあるデータサイエンティストもまた、セクシーな職業として、にわかに注目を集めている点で、リトルデータとは不思議な共通点がある。

 私が現役のデータサイエンティストとして、その仕事ぶりに注目している、大阪ガス情報通信部ビジネスアナリシスセンター所長の河本薫氏(関連記事:ナニワのデータサイエンティストは、現場の「こうちゃうか?」を尊重)は本書をいち早く読み、こう感想を漏らす。

 「『リトルデータ』や『技術者と魔法使い』といった本書に登場する巧みな言葉は、ビッグデータに代表されるバズワードに覆われがちなデータ分析の本質を露わにし、脳裏に焼き付く。本書はデジタル時代のマーケティング手法を語るうえで実践的なバイブルであり、何度も読み返したくなる」

 私も目次を見て、第8章に出てくる「技術者と魔法使い」という項目が、最初に目に飛び込んできた1人だ。読んでみると、著者の主張に共感できる。一言でいえば、「データ分析で得られた発見をアクション(行動)に移すことこそが重要だ」という話である。

 創造力や直感的な意思決定が必要になる部分、すなわち“魔法”が起きるクリエイティブな世界で、魔法の使い手である「魔法使い」は、技術者が管理するシステムが生み出す発見に耳を傾ける。つまり、データ分析で得られた発見を使い、ビジネスを変えるアイデアを創り出す。これこそが、著者の言う現代の魔法なのだろう。

 技術者と魔法使いがタッグを組んで働くこと。それは、システムエンジニアとマーケッターがお互いを尊重し合って、一緒に業務改革や新規事業に取り組むことに等しい。もっといえば、システム部門と現場の協業を意味している。

 これは大阪ガスの河本氏が最も重視していることである。その点が完全に合致しているのが、実に意味深く感じられる。

データ・サイエンティストに学ぶ「分析力」
ディミトリ・マークス、ポール・ブラウン 著
馬渕 邦美 監修
小林 啓倫 訳
日経BP社発行
2100円(税込)