企業や組織の意思決定がうまくいったケースを集めた本。著者のダベンポートはデータの分析力の大切さを強調してきた経営学者だ。今回の本でも当然のことのように、意思決定がうまくいくための4つの要因のうちのひとつとして、データの分析力があげられている。

 例えば、ハーバード大学医学部系の病院や診療所のすべてで、膨大な診療データを共有することをいち早く決定し、医療ミスの低減に取り組んだケース。「データ中心の治療アプローチ」と呼ぶシステムの導入後、患者が薬でアレルギーを起こすといった投薬ミスが従来の半分以下に減った。新しい電子カルテなどのシステムには臨床知識のデータベースが組み合わされ、人的なミスを防ぐ仕組みがある。

 本書がよい意思決定の要因としてあげるのは、参加型の意思決定、分析力、組織の文化、リーダーシップの四つ。もっと手短に本書のメッセージをいうなら、「もうカリスマの出番じゃない」ということだろう。古代アテナイ対ペルシア軍の対決の物語なども含まれていて、決断をめぐる肩の凝らないノンフィクションとしても楽しめる。

ジャッジメントコール 決断をめぐる12の物語

ジャッジメントコール 決断をめぐる12の物語
日経BP発行
トーマス・H・ダベンポート/ブルック・マンビル著
古川奈々子訳
1890円(税込)