普及期に入ってからまだ20年にも満たない歴史の浅いインターネットだが、今では企業、個人問わず、仕事や生活に欠かせないライフラインとしてその存在感を増している。日進月歩で急速な変化を続ける、この業界の未来を描くのは難しい。「賢者が描く10年後のインターネット」では、世界の賢者の中から、選りすぐったインタビューを掲載する。第1回目はスタンフォード大学で名誉教授を務め、AI(人工知能)分野における「エキスパートシステムの父」と呼ばれるエドワード・ファイゲンバウム氏。

AI(人工知能)分野で長きにわたって活躍されています。インターネットの行く末をどう見ているのでしょうか。

写真:KOICHIRO HAYASHI

 インターネットは例えて言うならばハイウェイです。交通インフラの整備が人々の未来をどう変えたのかを語る上で、道路そのものを見てしまうと問題は正しく捉えられません。むしろアトム(物質)からビット(デジタル)への世界を見ることが正しい解へと導いてくれるでしょう。

 私に今、レンズを向けているカメラマンの方を例に取りましょうか。15年前、カメラマンはフィルムを使ってアトムの世界の写真を撮影していました。今、誰しもがデジタルカメラで撮影します。家に帰れば写真のデータをパソコンに移し、画像編集ソフトで操作するでしょう。このインタビューは紙に載るのかな?オンラインに載るのかな?もしこれがオンラインに記事として公開されるのであれば、写真はずっとビットのままです。つまり、アトムが存在しない社会が訪れているという点が重要です。

 米国の映像制作会社でピクサーという会社があります。米アップルの創業者である故スティーブ・ジョブズ氏が買収した会社として有名ですよね。ピクサーはディズニーのアニメで活躍していた300人のアニメーション制作技師の仕事を消失させました。デジタルで制作し、デジタルで転送して、デジタルでプロジェクターから映す。アトムが入る余地は無くなったわけです。電子書籍も同じ。米国での電子書籍の売り上げは昨年、一昨年の2倍に膨れあがりました。加速度的にアトムが消えゆく世界になっている。

 こうしたことを踏まえた上でインターネットを見てみましょう。ハイウェイをドライブする上で最も重要なものは何か。それはインタフェースです。素晴らしいインタフェースが無ければドライブそのものが快適ではなく、遠くまで行くこともできなくなる。インタフェースを差異化するものこそ、AIのプログラムなんです。

 私はアップルのスマートフォン「iPhone 4」も「iPhone 4S」も持っています。どちらも見た目は一緒ですが、1つだけ違う点がある。それは音声で様々なアシスタントをしてくれる「Siri(シリ)」です。Siriはもともと政府の補助金によって、3億ドルもの大金をかけて始められました。スタンフォードリサーチセンター(SRI)で研究が始められ、そこからスピンアウトして「i」を付けて「Siri」と名付けられました。