UXの根底である戦略や要件をどのようにして検討するかについて、いくつかのステップを説明します。一般的にUXを検討する手法は、UXD(User Experience Design)と呼ばれていて、様々なものがあります。その中には、大規模なものも存在します。

 ただ、このような本格的な手法を最初から目指してしまうと、なかなかUXの検討に取り掛かれないでしょう。そこで、ここでは最小限の手法を紹介したいと思います。具体的なUIを考える際にも、ここで紹介する手法を使って戦略や要件の根底を固めておけば、迷うことなく開発を進められるでしょう。

 いくつかのワークシートを利用してUXを開発していきます。これから紹介するワークシートは、アジャイル開発において使用される「インセプションテッキ」と呼ばれるものを使っています。インセプションデッキとは、プロジェクトの全体像(目的、背景、優先順位、方向性など)を端的に伝えるためのドキュメントのことです。実は、アジャイル開発では、できるだけ短い時間で開発を効率よく進めるために、UXDと同様の検討を行っています。

なぜ取り組むかを考える

 まずUXを設計する上で、なぜこのプロジェクトに取り組むのか? という根本的な問いを解決しておきましょう。筆者の経験から、このような最も初期に検討する事柄に関して、初めのうちは思った以上に苦戦する傾向があります。すぐに書き出すことが難しくても、あまり気にしないでください。この後の作業を進めていくに従って、根本的な理由とは何だったのか?、ということを振り返ることができ、項目を埋められるようになるはずです。

 まず思い付く「重要な理由」をいくつか書いてください。その上で、共通するもっと大きな理由があるはずなので、それを一番大きく記述します。今回利用するワークシートでは、記入例として架空のクルマ開発プロジェクトの事例を掲載しています(図1)。

図1●なぜこのプロジェクトに取り組むのかを書き出す
図1●なぜこのプロジェクトに取り組むのかを書き出す
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 図1を見ると、重要な理由として「製品やサービスを取り巻く環境や状況」「チームの抱えている事情」「チームの理念や哲学からくる考え」などが続いていることがわかります。これらの項目は記述していく上で参考になるでしょう。最後に、結局これがやりたくてこのプロジェクトをやるんだ、という思いが記述されることになります。