UX重視の開発を成功させるための二つめの原則は、開発プロセスに現場のユーザーを巻き込むことである。
できるだけ上流の工程でユーザー部門を巻き込み、プロトタイピングと検証を高速に繰り返す。このことが、優れたUXを実現するカギとなる。
冒頭で紹介したファンケルの開発プロセスを見ていこう。
現場の約30人が開発に参加
ファンケルの顧客対応システムは、CRM(顧客関係管理)システムを全面刷新する全社プロジェクトの一環として開発したものだ。カタログ販売、インターネット販売、直営店販売の顧客情報を統合し、接客やカウンセリングに生かす構想である。
開発には、直営店の店長、販売員を指導するトレーナーといったシステムのユーザー約30人が参画した。「全社プロジェクトとの意識が浸透しており、現場のメンバーも積極的に参加してくれた」と、管理本部情報システム部 コーポレートシステムグループの渡辺拓人グループマネージャーは語る。
このシステムを直営店で利用するためのアイデアとして浮上したのが、タブレットの活用だった。棚の商品を見ている客に販売員が声をかけて、タブレットを使って直接カウンセリングを行う。
顧客にとっても販売員にとっても、タブレットを使った接客は初めての体験。UXを徹底的に練り上げた開発が成功のカギになる。こう考えた渡辺氏は、日立製作所のユーザー中心開発手法「Exアプローチ」を取り入れ、2011年7~9月の3カ月間で、システムの仕様や画面を設計した(図1)。
日立からは、画面設計デザイナーや業務デザイナー、フィールド分析の専門家、そしてタブレット向けアプリ開発に詳しい2人のSEが参加した。デザイナーが次々にアイデアを繰り出し、SEが実現の可否をその場で判断したり、プロトタイプを作ったりできる布陣だった。メンバーは週2回一堂に会し、システムの仕様を決めていった。