顧客や社員といったユーザーの行動を大胆に変える。これが一つめの原則だ。魅力的なUXの実現に焦点を当て、これまでの常識に捉われずにユーザーとシステムとの関わりを見直す必要がある。
カブドットコム証券と、ある飲食店の例を通じて、この原則の実際を見ていく。
初心者狙い、情報を集約
Windows 8専用アプリケーションで、長らくランキング上位を占めていたアプリがある。カブドットコム証券が2012年秋に公開した株価情報アプリ「kabu.com for Windows」だ(図1)。
株価上昇率、株価推移グラフ、関連ニュースを1枚のタイルに集約。何度も画面をタッチしなくても、直感的に株価の傾向を理解できるようにしている。
同社はこのアプリを実現するに当たり、UX重視の開発プロセスを採用した。以前利用していた株取引ツールの操作性に不満が相次いでいたことから、2011年ごろにUX重視の開発へと舵を切ったのである。
開発チームは、アプリのターゲットを株取引の初心者に据えた。「ターゲットを明確にすることで、表示する情報の優先順位を付け、情報を絞り込む」(事務・システム本部システム部開発課の中澤康至氏)ためだ。この初心者層に対して、「情報を得る際の驚きや、操作する楽しみを与える」ことをUXの目標とした。
「思考の流れ」を追う
まず検討したのは、株取引の初心者が株価情報を見る際の「思考の流れ」である。
初心者が銘柄を選ぶとき、真っ先に気にするのは「今売れている銘柄」だ。そこで、最初に株価上昇率のランキングをチェックすると推定した。
次に利用者が知りたいのは「値上がりが短期限りか、長期トレンドなのか」だ。それを知るために、株価推移グラフを参照する。短期の値上がりであれば、続いて株価に影響を与えたニュースを見たくなるはずだ。このように開発チームは初心者層の行動を考えた。
一般的な株価情報サイトでは、こうした情報を見るために、複数の画面を開く必要がある。開発チームはこの「常識」を疑った。
見たい情報を同時に表示させれば、いちいちリンクをたどって必要な情報を探さずに済む。こうして、必要な情報を1枚のタイルに集約する、新しい画面インタフェースを編み出した。
中澤氏は今後、ユーザーからのフィードバックを基に、想定するユーザーの思考の流れを適宜修正し、アプリに反映する考えだ。アプリに株を発注する機能を加える計画もあるという。