BPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)拠点のメッカと言える中国・大連で、BPO事業者が難易度の高い複雑な業務の受託強化に乗り出している()。日本語が分かる従業員を多数抱える強みと、これまでのサービス受託による経験を武器に、より付加価値の高いサービスの提供に挑む。

表●主な日系BPO事業者における大連拠点作業の高付加価値化と体制拡大の動き
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 BPO大手のインフォデリバは今春にも、「電話確認業務」の提供を始める。例えば金融機関から、口座開設申込書のデータ入力業務と電話確認業務を請け負う際の流れはこうだ。インフォデリバの大連拠点は口座申込者が記入した申込書の電子データを金融機関を通じて受け取り、内容を確認する。そこで不備を見つけたら、インフォデリバの担当者が申込者に直接電話をかけて確認を取る。

 単純なデータ入力だけを請け負う従来の受託では、不備があったら金融機関に報告し、金融機関が申込者に確認を取っていた。このため、不備があると申込書の入力処理に時間がかかっていた。電話確認業務によって、顧客業務のスピードアップにつながる。

 もしもしホットラインは見積書の作成業務を始めている。顧客企業からあらかじめ商品の原価や販売先ごとのマージンなどの情報を得ておき、見積もり依頼書を受け取ると、それらの情報を参照しながら見積書を仕上げる。経営・営業企画本部BPO事業部の横田祐平事業部長は、「データ入力などの単純業務は、タイやベトナム拠点にシフトさせていく」と話す。

 トランスコスモスは大連拠点で請け負うBPO業務を、CADによる図面設計といった特定分野の業務知識が必要な作業に特化させる。以前から同作業に3分の2の人員を割いていたが、この割合を高め、3分の1の人員がこなしていた単純作業は蘇州などの他拠点に移管していく。

 BPO事業者が提供サービスの高付加価値化を急ぐ背景には、中国における賃金上昇がある。BPO事業は突き詰めれば人件費の差分を利用したビジネスだ。トランスコスモスの内村弘幸理事ビジネスプロセスアウトソーシングサービス統括副責任者は、「大連の賃金上昇は原価ベースで年率10%程度。極端に高騰している感覚はない」と述べるが、中長期的にみれば見逃せない問題だ。

 コストだけを武器にしていては行き詰まる―。こうした危機感から、BPO事業者はサービスの高付加価値化に舵を切る。人件費の上昇分を上回る価値を提供できるかが、大連BPOの今後を左右する。