今回の投稿は、“企業内起業”の事例として取り上げた、クアルコムの「ベンチャー・フェスト」の続編です。彼らが直面した課題や失敗体験は本質的なものであり、ほかの企業の取り組みにも大いに参考になりそうです。(ITpro)

 皮肉なことに、斬新な新しい製品や事業アイデア創造の成功は、企業文化と組織、そして以前から培われてきた研究開発部門主導のイノベーション・モデルと真っ向から対立しました。

・企業文化の問題:マネージャーは、自分の部下がブートキャンプに参加するのを認めましたが、斬新なアイデアのほとんどの決定時期が定められていないことを懸念しました。従業員たちは、別の懸念を持っていました。会社の規則では、従業員に認められていたのはブートキャンプへの参加だけだったため、それ以降、どのようにそのプロジェクトに参画できるのか明確にしてほしいと考えたのです。

・組織上の問題:3カ月間のブートキャンプから出てきた斬新なアイデアのほとんどは、現実的ではなく仮説である可能性が高いものでした。しかし、チームがブートキャンプを終了する際、どの既存事業部門がそのチームを評価するか決まっていませんでした。

 本プログラムの設立条件の一つが、その成果を実施する恒久的な部門を作らないことだったので、社内にはその成果を評価する専任部門がありません。私たちはどこかの事業部門に評価を委託する以外、方法がありませんでした。ということは、その部門がアイデアとチームを十分に理解し賛同する以前に、評価する必要があったのです。

 後で考えると、私たちは「アイデアの検証」を、広範囲な顧客発見をする会社の組織(ポップアップ・インキュベーターのようなもの)で行うべきでした。私たちはこのプロセスを、事業部門にチームを委託する前にやるべきでした。あるいは、新しい事業部門として独立させるか、別会社としてチームをスピンアウトすべきでした。

 このプラグラム最後の年、この問題を解決するため、上位20チームはブートキャンプに入る前に、自身のアイデアとチームを支援する事業部門を探すことを義務づけました。各チームの最初の運営資金として25万ドルを用意することにしたので、合計500万ドルを全事業部門から集めました。皮肉にも、これによって複数の経営幹部が「より斬新で先端的なアイデアを失うのではないか」と心配し、批判を引き出したのです。

・守られたイノベーション・モデルとの問題:クアルコムの既存のイノベーション・モデルは、研究開発部門で無線製品が開発され、既存の事業部門に商品化を目的として渡されるというもので、既存の無線とモバイル分野において驚異的に成功していました。

 べンチャーフェストの案件は、それらの成功に組み込まれていませんでした。ベンチャー・フェストは、全く新しいベンチャー、時には無線以外の分野を提案することもあり、新しいビジネスモデル、デザイン、オープン・イノベーション(社内のイノベーションに頼らず、社外からもイノベーションを導入する)を強調し、クアルコムの研究開発部門向けのプロジェクトを提案することではありませんでした。この非技術的なアイデアはクアルコムの既存の研究開発部門で培われた知的財産の上に構築された、「研究所から市場へ」というモデルに適合しませんでした。

 その結果、優れたプロジェクトやスピンアウトになったかもしれない案件を、受け入れる社内の事業部門はありませんでした。最終的にクアルコムは、既存の研究開発プロジェクトの範囲外にあって、既存の事業部門に手渡すには時期尚早なプロジェクトに対処するためのインキュベーターを設立しました。

 私たちは、これまでクアルコムにとって非常に有効だった、既存の研究開発プロセスを踏襲した研究開発部門のイノベーションの事実上の主導者たちに、私たちの奇妙なプロジェクトを採用するよう依頼しました。それを採用することは、彼らが知的財産権取得のリスクを取り、また彼らが経験と安心できる範囲外にある、顧客と市場のリスクを取ることを意味しました。

 そのため、私たちがこれらの新しい製品のアイデアを受け入れてくれるよう依頼した際、当然、懐疑的な考えの壁にぶつかりました。つまり、私たちが企業のイノベーション・プログラムを設立したときの最大の誤りは、既存のイノベーション・モデルと研究開発部門を運営している経営幹部と、私たちのプログラムがどれほど乖離したものだったかを十分理解しなかったことでした。