フィリピンは“出稼ぎ”文化の国だ。9000万人を超える人口のうち、1割近くが海外で働く。政府も外貨獲得のため、出稼ぎを重視している。2004年7月、イラクで発生したフィリピン人誘拐事件で、武装勢力の要求に応じて現地に派遣していた軍の撤退を決めたことが象徴的である。「テロ組織に妥協しない」という米国などの方針に反してまで、フィリピン政府は海外就労者の安全確保を優先したのだ。

 フィリピン人は英語を使えるというアドバンテージを持っており、海外や外資系企業で働く際も言葉の壁が存在しない。学生の間では、海外に出稼ぎに出たいという希望が強く、海外で職を得やすい看護系の学部の人気が高い。

 実は同じ理由でIT技術者も人気の職種だという。フィリピンにおける日系オフショア企業の老舗であるAWSの小西彰代表取締役社長は、「フィリピンのIT技術者はASEAN各地に出て活躍している」と証言する。フィリピン国内に進出する外資系のグローバル企業に就職し、キャリアアップを目指す技術者も多い。こうした“出稼ぎ文化”が浸透しているフィリピンで、IT技術者を長期的に雇用し続けるのは簡単ではない。

育成を重視する日系企業

 フィリピンに進出する日本企業は、ほとんどの場合新卒でIT人材を採用する。採用後に教育を施し、育成していくスタイルだ。

 例えば400人強の技術者を擁するAWSは、毎年50~60人の新卒採用を実施している。中途採用は年間で10人程度だ。新卒採用の場合、2000人程度の応募者の中から優秀と思われる人材を選考しているが、それでも教育は欠かせない。

写真1●AWSの教育風景
写真1●AWSの教育風景
[画像のクリックで拡大表示]

 日本向けのオフショア開発を主とする同社の場合、技術面に加えて日本語の教育が必要になる。トレーニングセンターを設け、1年をかけて育成する。1990年からフィリピンでのオフショア開発を手掛ける月電グループも、毎月10人以上の技術者を採用するが、その多くは新卒。3~6カ月の研修を設け、OracleやJava、PHPといった技術教育に加え、日本語教育も施す(写真1)。

 新卒を採用して育成を重視する姿勢は、現地に開発拠点を設けるユーザー企業も同じだ。