IT分野における日本とフィリピンの関係を象徴する数字がある。フィリピンの全産業における輸出相手国は日本が88億6500万ドルで第1位、全輸出の20%近くを占める(国家統計局調べ、2011年)。他のASEAN諸国向け輸出の全てを足した数字を上回り、第2位の米国とは約18億ドルの開きがある。フィリピンにとって日本は最重要な貿易相手国なのだ。ところがIT分野に関しては様相が異なる。

 2010年のフィリピンソフトウエア産業協会(PSIA)の調査では、フィリピンにおけるBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)やオフショア開発といったIT関連輸出の63%を米国が占め、欧州が24%で続く。日本は3番手で、全輸出に占める割合はわずか7%に甘んじる。PSIAは2016年に、この日本に対する割合を10%まで引き上げる目標を掲げる。だが、日本企業とフィリピンのIT企業や技術者との結びつきは、現時点ではそれほど強くない。ただし日本企業も指をくわえているわけにはいかない。フィリピンのIT企業や人材は、着実に世界での存在感を増している。

写真1●日本貿易振興機構(ジェトロ)・マニラ事務所の伊藤亮一所長
写真1●日本貿易振興機構(ジェトロ)・マニラ事務所の伊藤亮一所長
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 日本貿易振興機構(ジェトロ)・マニラ事務所の伊藤亮一所長(写真1)によると、「コールセンターの取引額においては、2011年にインドを抜いてフィリピンが世界1位に躍り出た」という。米系投資顧問会社が発表した「2013年度版BPO事業拠点ランキング」では、上位8位中インドの都市が6つを占める中、マニラ首都圏が3位、セブ市が8位に入っている。

 オフショア開発においても成長を続けている。2005年は約2億400万ドルだったのが2011年には9億9300万ドルと、6年間で5倍弱に拡大した。米IDCの調査によると、フィリピン全体のIT産業規模は2013年予測で約56億ドル。PSIA会長のノラ・テラド氏は、「2020年には(コールセンター業務も含め)500億ドルを目指している」と強気だ。

日本企業の海外拠点向けに年率65%成長

 日本の企業もフィリピンIT産業の勢いを取り込まない手はない。ただ、そのためには日本企業が情報システム開発におけるマインドセットを改める必要があるだろう。

 日本企業は、海外でオフショア開発をする際もほとんどの場合、日本語でのやり取りを希望する。仕様書や設計書も日本語だ。そのため、日本語ができるオフショア先を求めて、中国やベトナムの企業を使うことが多い。ところが自社の事業をグローバルに展開している場合、あるいは今後目指す場合に、日本語一辺倒の開発にこだわる必要はない。

 海外拠点の情報システム構築する際の現地とのやり取りは英語の方が、開発のスピードや品質を向上させることができる。日本国内向けのシステムであれば日本語でのやり取りの方が効率がいいが、グローバル化を推進する際はITの現場でも、英語を標準に位置付けた方が円滑なコミュニケーションが図れるだろう。その場合、日本から最短距離に位置する英語圏フィリピンは魅力的だ。先進企業はそのことに気づき始めている。

 PSIAの調査によると、2011年のフィリピンの日本企業向けIT関連輸出は約8400万ドル。そのうち日本国内の日本企業向けは約6900万ドル、2008年からの3年間で年率25%増加した。その一方、日本国外の日本企業向けは約1500万ドルと少ないが、同じ3年間で年率65%の高い伸びを示している。