データベース管理ソフト「Oracle Database」が初めて市場に出て35年が経過した。この間にOracle Databaseは、ユーザーのために最先端のテクノロジーを取り入れることに努めてきた(図1)。

 その一例が可用性を高めるための機能である。2001年に出荷したOracle Database 9iでは、クラスター構成を実現するための機能である「Oracle Real Application Clusters」を追加した。2003年に出荷したOracle Database 10gでは、データベースグリッド技術を採用した。これにより、安価な複数のサーバーを組み合わせるといった従来よりも低コストの方法で可用性が確保できるようになった。

 米国時間の2013年7月1日、オラクル製データベース管理システムの最新バージョンとなる「Oracle Database 12c」が米国で正式発表となった。最大の特徴は、クラウドコンピューティング環境の進展を意識して、データベースの「マルチテナント」を実現するための機能を実装したこと。マルチテナントとは、一つのシステム管理環境下に、複数のシステムを同居させる形態のことを言う。バージョン名の最後に付く「c」はクラウドを表している。

図1●近年におけるOracle Databaseのバージョンアップ内容のポイント
図1●近年におけるOracle Databaseのバージョンアップ内容のポイント
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一般企業にもインパクト

 今回の12cでマルチテナントを前面に押し出している理由は、マルチテナントを実現する技術はパブリッククラウド環境を運用するサービス事業者はもちろんのこと、プライベートクラウド環境を持つ一般企業まで、様々な層のユーザーにインパクトをもたらすからだ。

 マルチテナント化にまつわる各種の技術というと、「パブリッククラウド環境を運用するサービス事業者にとっての話題で、一般企業には詳細のことは関係ない」と捉える向きがある。

 しかし、マルチテナントはプライベートクラウド環境を運用する一般企業にとっても重要なトピックとなりつつある。それぞれがハードウエア環境などを専有していた複数のシステムを一つの環境に統合させる場合には、パブリッククラウド環境の設計と同様のことを検討しなければならないからだ。例えば、統合後における管理者権限をどう分離するかといったセキュリティ管理の側面や、プロセッサーやメモリーのリソースをどのように配分するかといった点が挙げられる。

既存の技術のデメリットを補う

 これまでもデータベースのマルチテナント化を実現する技術や手法は、「サーバー統合」や「データベース統合」というキーワードでいくつか登場している。仮想化ソフトウエアを使った統合や、Oracle Databaseのスキーマを使った統合などだ(詳しくは後述する)。

 ユーザーがこれら既存の方法から選択する際に考慮するポイントは、主に三つある。リソース効率がどのくらい上がるか、管理コストがどのくらい下がるか、移行の負荷はどのくらい高いのか---である。ただしこの三つのポイントから見ると、既存の技術や手法それぞれにメリットとデメリットがあるため、選択が悩ましいという現状があった。

 そこでOracle Database 12cでは「マルチテナント・アーキテクチャ」という新しいデータベース構成方法を実装した。これにより、既存の技術や手法ではぬぐえなかったデメリットを補いながら、データベースのマルチテナント化によるメリットを享受できるようになった。

 これに加えてOracle Database 12cでは、データ配置を最適化する機能、セキュリティリスクを低減させる機能、可用性をさらに向上させる機能など、複数の機能を実装・強化した。いずれも、データベースをマルチテナント化した環境、ひいてはクラウドコンピューティング環境の上でデータを安全に運用管理するために欠かせないものである。