システム構築で失敗が多く、IT活用の進まない会社を見抜く方法がある。その会社のシステム開発を担当するエンジニアとユーザーのそれぞれに、相手のことを聞いてみればよい。すぐに相手の悪口が出てくるはずだ。

 開発者の言い分はこうである。「ユーザーはわがままだ。ITのことなんかこれっぽっちも分かっていない。無茶な要求を連発し、出来上がったシステムにはいつも文句ばかりを言う」。

 ユーザーも黙ってはいない。「システムの連中は人間よりパソコンの好きなオタクばかりだ。それに業務を全く分かっていない。何かと言うと『できません、できません』のバカの一つ覚えだ」。

 このような関係でシステム構築がうまくいくはずがない。RFP(提案依頼書)を作成するときに実施する業務要求の洗い出しや要件定義に代表されるように、システム構築は開発者とユーザーの共同作業である。さらに言えば、ユーザーが当事者意識を持ってプロジェクトに主体的に参加するように、開発者側はあれこれと気働きをする必要がある。

 開発者とユーザーの関係が良好であれば仕事はしやすいのだが、お互いに腹の中で「いけすかない連中と一緒に仕事をするのは嫌だな」と思っていると良い成果を得ることは難しい。そのようなギャップがあると、システム構築プロジェクトは失敗の可能性が高くなる。

 このギャップを埋めるには、やはり開発者がユーザーに歩み寄る姿勢を見せるしかない。なぜならビジネスの視点でみれば、開発者にとってユーザーは「顧客」であるからだ。顧客であるユーザーが開発者の何に不満を持っているのかを知って、それを解消するようにアプローチすべきであろう。

 よくあるユーザーの声をいくつか紹介しよう。

「業務について分からないことがあれば聞きに来ればいいのに、全く聞きに来ない」

「下調べをせずに手ぶらでヒアリングに来たから一言注意したら、もう来なくなった」

「業務要求に関していろいろと聞かれたから答えたのに、それらの要求をシステムで実現するのかしないのかフィードバックが全くない。次からは答えるのが面倒になってしまう」

「システムで分からないことがあって質問すると、露骨に面倒くさい顔をされたり、そんなことも知らないのかと見下されたりする」

「ミーティングでITの専門用語を連発されるので、話が分からない」

 ユーザーとしっくりといかない開発者は上記の声に思い当たることはないだろうか。コミュニケーションの初歩的なミスでつまらない行き違いをしていないだろうか。一部の例外を除いて、開発者(=ITエンジニア)の仕事で最も大事なスキルは「コミュニケーションスキル」である。

 さらにこのスキル以上に重要なのは、開発者がユーザーを理解しようという積極的な姿勢だと、筆者は思う。開発者とユーザーがお互いに尊敬し合う関係を築くことが、システム構築の最大の成功要因であることをあらためて認識してほしい。

永井 昭弘(ながい あきひろ)
イントリーグ代表取締役社長兼CEO、NPO法人全国異業種グループネットワークフォーラム(INF)副理事長。日本IBMの金融担当SEを経て、ベンチャー系ITコンサルのイントリーグに参画、96年社長に就任。多数のIT案件のコーディネーションおよびコンサルティング、RFP作成支援などを手掛ける。著書に「RFP&提案書完全マニュアル」「事例で学ぶRFP作成術 実践マニュアル」(共に日経BP社)など