「何度も見積もりを出し直しているのにOKが出ない。また出したってきっと結果は同じだよ」。JSOLの斎藤 大氏(AMOサービス本部 部長)は開発プロジェクトのPM(プロジェクトマネジャー)をしていたとき、あるメンバーの独り言にはっとした。

 そのメンバーは、ユーザー企業の利用部門の担当者から依頼され、新たな追加開発案件について見積もりを算定していた。利用部門の担当者から、示した見積もり内容にNGが出されても、当初の1、2度は、メンバーの様子は明るかった。打ち合わせ先からオフィスに戻ってくると「突き返されちゃいました」と苦笑いで、斎藤氏に報告していた。

 ところがそれが4度、5度と続いた。口数は減り、ふさぎ込むようになった。メンバーはへこんでしまったのだ。まともに仕事が手につかず冒頭のような独り言を時折つぶやくばかり。斎藤氏はしばらくメンバーの様子をうかがっていたが、へこんだ状況から自ら脱しようとするそぶりは見えない。「すぐにケアする必要があった」という。

ストレスを跳ね返せないのでへこむ

 斎藤氏のチームメンバーのように、現場でITエンジニアがへこむことは少なくない。ここでいう「へこむ」とは、仕事でかかった大きなストレスを跳ね返すことができずにめげる状態を指す。

 「人間関係がうまくいかない、仕事の負荷がかかりすぎる、裁量権が与えられず思い通りの判断ができない、といった場面に直面しストレスを感じたとき、ITエンジニアはへこむことが多い」と、アイ・ティ・フロンティアで産業医を務める杉村久理氏は指摘する。

 精神的に強い人であってもストレスをすぐに跳ね返せないときがあるもの。周囲から「いつも活発に発言して精力的に活動している」と評されているベテランPM、三井情報の金田慶春氏(サービス事業本部 DCサービス営業部 部長)も「開発を担当したアプリケーションで大きな不具合を出して利用者に多大な迷惑をかけたときは、心底へこむ」と話す。メンバーのミスで起こった不具合を、利用部門の担当者に謝りに行ったときは、厳しい言葉を浴びせられてくじけることもしばしばあるという。

 ただ金田氏は、へこんでもそれが長く続くことはない。へこんだときに復活する術をいくつか身に付けてすぐ実践しているからだ。その復活術の一つが、家に帰ったら風呂に入りリラックスすること。そして「どれだけ悔やんでも起こってしまったことだ」と、へこんだ気持ちを振り払うよう、意識的に解決へと考えを切り替えることだ。こういった術を行うことで「とことんへこんでも1日で復活できる」と金田氏は話す。

 金田氏のケースでも分かるように、へこんだときは自らの気持ちをそのままにせず、できるだけ早くへこんだ状況から復活するよう、心掛けることが大切だ。「長くへこんだままだと、仕事が手につかず成果は出せないし、ミスも増える。気持ちが重いままになるので心の病にもかかりやすくなる」と、ITエンジニア向けコンサルティングを手掛ける、ソフィア ヒューマン キャピタルの室伏順子氏(代表取締役社長)は指摘する。

 だからこそ金田氏のように、へこんだときの復活術はぜひ身に付けて実践したい。そこで本特集では、「大きなミスでへこむ」「仕事が山積してへこむ」「出口が見えずにへこむ」という、現場でITエンジニアが直面しやすい場面を三つ取り上げ、それぞれで実践するとよい復活術を紹介する(図1)。

図1●IT現場でエンジニアがへこむことは多い
図1●IT現場でエンジニアがへこむことは多い
大きなミスを引き起こしたり仕事が山積したりするなど、ITエンジニアが現場でへこむ場面は多い。仕事への影響を最小限に食い止めるには、すぐに復活する術を身に付けたい
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 いずれもベテランエンジニアや、メンタル面でのケアに詳しい専門家が勧めるものばかりだ。次回紹介するプロのスポーツ選手を支えるメンタルトレーナーからのアドバイスと併せて体得してほしい。さらにリーダー向けに「へこんだメンバーの復活術」も紹介するので参考にしてもらいたい。