単純な数値データであっても大量に蓄積し、人の知見や様々な分析要素を組み合わせることで新たな工夫の種が浮かび上がる。一般企業の業務システムが生み出すビッグデータも、ビジネス改善のカギに成り得る。こうしたことを、ダイキン工業と全日本空輸(ANA)の事例は示してくれる。

 エアコン最大手のダイキン工業が提供する業務用空調機の保守サービス「エアネットII」では、空調機の運転データを同社の監視センターで収集し、24時間365日体制で稼働状況を把握している。空調機の運転データは1分単位で取得し、故障の予兆を検知したら、空調機の異常が発生する前に制御する。緊急度が高い場合は保守員がただちに駆け付けることもある。

空調機の“生”の運転データを活用

 空調機にセンサーを取り付けて遠隔監視するサービスは競合メーカーも提供している。ダイキン工業のサービスの特徴は「空調機自体が持つ“生”の運転データを活用している」(ダイキン工業サービス本部企画部営業企画グループの田中雅宏システム技術担当課長)点だ。データの種類は60以上に及ぶ。

 さらに、ベテランの保守部員が持つノウハウを集約した故障予知用のアルゴリズムを、空調機の制御システムに実装してある。これと詳細な運転データを組み合わせることで、自動診断の精度を高めている。

 「当社の空調機は約20年前から現在に至るまで、詳細な運転状況や部品状態などのデータを外部に提供する機能を組み込み、遠隔監視に利用してきた。この長年のノウハウが大きな武器になっている」。田中担当課長は強調する。

 ダイキン工業はこの仕組みを土台に、次々とエアネットIIへ新サービスを追加中だ(図1)。空調機の稼働状況と、顧客のオフィス周辺の天気予報を組み合わせて、省エネにつながる適度な温度設定を算出する。遠隔から空調機の運転を制御することで、空調機の年間電気料金を最大で2割削減できるという。

図1●ダイキン工業は空調機の稼働データを大量に収集して新たなメンテナンスサービスを次々に追加
図1●ダイキン工業は空調機の稼働データを大量に収集して新たなメンテナンスサービスを次々に追加
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 今後は監視センターに蓄積されている大量かつ長期間のデータを基に、より微細な予兆を発見できるよう改良していく方針だ。例えば、空調機の冷媒が少しずつ漏れていく現象の検知機能を検証中である。

 空調機から漏れる冷媒の量は非常に少なく、空調機への影響がすぐにあるわけではないので、既存の仕組みで検出するのは難しい。そこで、冷媒漏洩を判別するための特別な指標を設け、長期間の運転データを分析。冷媒漏洩の検知につながる傾向を見いだそうとしている。