前シリーズの戦略編に続き、今シリーズは実務編として、エンタープライズモバイルにおけるIT部門の役割を考えていく。

 実務編1回目となる今回は、エンタープライズモバイルの導入/展開事例を基に、実際に取り組む上で意識しなければならないポイントがどこにあるのか説明していく。

4つの「変わる」を意識する

 エンタープライズモバイル領域においてもITを活用したビジネス改革の実現を目指す企業は多い。

 そのような中で、「モバイルを活用すれば何か実現できることがあるのではないか」、「今までとは異なるモバイルならではのやり方、考え方があるのではないか」、「本当にモバイルをビジネスに有効活用できるのだろうか」といった期待や悩みを多く聞く。この領域においても、その悩みを即時に解決させる特効薬が存在するわけではないが、実際に取り組んでいく上で意識すべきポイントがいくつか存在する。

図1●モバイル導入/展開をする上で意識すべき4つのポイント
図1●モバイル導入/展開をする上で意識すべき4つのポイント

 事例を踏まえながら、この意識すべき4つのポイントの具体的な内容を触れていきたい。

4つの「変わる」の具体的なケース

ポイント(1) 業務プロセスが変わる

 [ケース1] モバイルありきの業務プロセス設計

 スマートデバイスを活用し営業改革を実現していきたいが、単に営業支援システムを入れるだけでは営業改革が実現できないと感じており、どのように実現すべきかIT部門は模索している状況であった。また、今までのシステム導入と同様のアプローチだと上手くいかないのではと、漠然と感じていた。

 そこで、今までのような既存業務プロセスを基に効率化や標準化していくことをせず、現在の営業活動の1日の流れに対して、何処にモバイル活用のポイントがあるか検証していった。

 PCと違いスマートデバイスは起動が早い。起動が早ければ、ちょっとした隙間時間を利用して、メールや簡単な営業情報の確認などが可能になる。そうなると、訪問先で営業を行う直前に顧客情報の確認ができるようになり、売り方の強化につながるなど、今まで以上に武装して営業に臨むことができるようになる。さらには、新しいカタログが日中に更新される場合、直前にその情報を確認できるため、顧客に鮮度の高い情報提供が可能になる。

 そのようなことから、隙間時間を利用し、その場で情報の参照や入力ができ、その場で完結できる業務をモバイル化の対象とした。

 例えば、顧客情報の参照、訪問履歴の参照、カタログ情報の参照、日報作成、経費精算の処理、簡単な伝票作成、見積書の作成などである。

 この中には、バックオフィス側が担当するような雑務的な業務も含まれている。しかし、雑務もシステム化の対象とし、営業が隙間時間を利用してその場で業務をできるようにすることで、効率化が図れる。

 実際に効率化が望める業務に対してモバイルシステム化することで、今までにない業務標準化が進む。効率化や標準化が進めば、例えば、少ない営業訪問回数で成約につなげることや顧客向けサービス提供時間の創出などにつながり、より実のある営業活動に注力することが可能となる。

 このようにして、営業の行動様式を対象とした業務プロセス設計と、そのモバイルシステム化を進めていった。

図2●ポイント(1) 業務プロセスが変わる
図2●ポイント(1) 業務プロセスが変わる