写真1●大連ソフトウエアパークなどが開催した日系企業向け誘致セミナー

 「日中関係の緊張は続いていますが、大連での事業活動は普段通り。とても安全です」─。2012年11月27日、東京・西新宿の高層ビルの一室に声が響く。語っているのは、中国・大連でITパークの開発・運営を手がける大連ソフトウエアパーク(DLSP)などの関係者。日系企業向け誘致セミナーの一こまである。

 DLSPは日本のIT企業などに対して、大連に拠点を設ける魅力をアピールするセミナーを毎年開催している。今回のセミナーには日系企業から約40人が出席。昨年に比べ、セミナーの規模は半分に縮小した(写真1)。

 「2012年前半は、前年を上回る勢いで日系企業が進出していた。しかし、同年後半は伸び悩んでいる」。セミナーに合わせて来日したDLSPの高(火に偉の右)総裁と田豊副総裁はこう話す。DLSPに拠点を構えるイダテック日本法人の崔海紅社長は「この状況下では2013年も、日系企業による中国進出の勢いは落ちたままだろう」とみる。同社は中国IT企業で、売上高の約6割を日本向けBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)事業などが占める。

写真2●多くのIT企業が入居する大連ソフトウエアパーク

 DLSPの総裁たちが先行きを懸念するのも無理はない。DLSPの施設には現在、BPOやソフトウエア開発などを手がける世界中のIT企業が約400社入居している(写真2)。うち4分の1に当たる100社近くが日系企業だ。さらに、DLSPに入居する企業の約8割が日本向けにビジネスを展開している。DLSPや現地BPO事業者の業績の浮沈は、日系企業の進出動向と、日本からの業務発注量に大きく依存しているのだ。

 このように中国企業は、日本との良好な関係の維持に腐心している。しかし、それは彼らにとって日本が上客だからだ。実際には、尖閣問題を契機とした日中関係の悪化の影響は、日系IT企業の中国ビジネスにまで及ぶ。中国の大連以外の地域では、日系IT企業は苦難に見舞われているのだ。

 本誌の独自調査で、中国へ進出済みの日系IT企業の営業活動に様々な支障が生じていることが判明した()。

表●日中関係の悪化により、中国市場で日系IT企業のビジネスに出始めた影響
表●日中関係の悪化により、中国市場で日系IT企業のビジネスに出始めた影響
入札からの締め出しや、人材採用の応募者減少、契約延期や解約などが発生している
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