前回では、予測技術の中でも世間から注目を集めやすい、株価予測について取り上げた。今回はソーシャルメディアを使った予測技術の中から、やはり注目を集めやすいヒット予測について取り上げる。

 ユーザーの口コミからヒット商品が生まれるケースは多い。であれば、ソーシャルメディアでユーザーの口コミを観測することで未来のヒット商品を予測できるのではないか、と期待されるのは当然のことだろう。小売り業で仕入れに役立てたい、メディアでいち早く新鮮な話題を取り上げたい、投資家で業績が上向きそうなメーカーの株を買いたい、などの活用目的が考えられる。

 だが、そううまく期待に応えられるものではない。現実的に有効な活用法は、少なくとも現状では異なっている。

映画のヒット予測に対する2事例

 このギャップを説明するために格好の素材が、映画の興行成績を扱った2つのアプローチ事例である。1つは鳥取大学の石井晃教授が、著作『大ヒットの方程式 ソーシャルメディアのクチコミ効果を数式化する』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)で紹介した数理モデルによるアプローチだ(図1)。

 同書によると、ブログの口コミ数の公開日からの推移と、映画の興行収入と口コミの継続性は強く相関しているという。 

 なお、この本の内容については、下記の記事でも詳しく取り上げられている。

CGMから「感情」の動きを数式化! 大ヒットの方程式とは何? ( ASCII.jp、2012年12月17日付)

 石井教授は「映画を観てそれを口コミに書く」「それを見た人が観に行く」「さらに話題にする」という消費者行動を、間接コミュニケーションでの話題の広がりと収束の推移という形でモデル化した。映画の興行収入を公開前から予測できるわけではないが、作品の話題性と興行収入に強い相関があるときは、口コミは予測にも使える、ということだ。

図1●鳥取大教授石井晃氏の予測モデルによる、映画の興行収入と口コミの継続性の関係(同氏の資料を基に筆者作成)
図1●鳥取大教授石井晃氏の予測モデルによる、映画の興行収入と口コミの継続性の関係(同氏の資料を基に筆者作成)
[画像のクリックで拡大表示]

 もう1つは、かなり古い事例になるが、映画配給会社のギャガ・コミュニケーションズ(2005年に経営不振に陥りUSENが買収、現在の社名は「ギャガ」)による、映画作品の属性データを元に、国内での興行成績を予測するアプローチである。

映画・小売に見るデータマイニング導入手順の実例 - @IT 2002年2月8日付

 同社の予測モデルは、過去の映画に関するキャスティングや脚本、ジャンル、海外での興行成績、評価などの情報と、国内における実績のデータを用いていたとされる。映画の買い付けを検討する時に予測モデルを使い、作品の評価や国内での展開方法について検討していた(図2)。

図2●ギャガ・コミュニケーションズ(現ギャガ)が行っていたとされる予測アプローチの概要
図2●ギャガ・コミュニケーションズ(現ギャガ)が行っていたとされる予測アプローチの概要
[画像のクリックで拡大表示]

 ビジネスとしてより大きな期待がかかるのは、映画の買い付け段階から活用できるギャガのようなアプローチだろう。公開されたから後で観客動員数の推移を予測する石井教授のアプローチでは、予測結果が出てから打ち出せる対策が限られている()。

表●ソーシャルデータと作品情報それぞれによる予測の特性
予測アプローチ 予測可能なタイミング 一定の精度を確保できたときのインパクト
ソーシャルデータによる予測 公開後 少ない
作品情報による予測 公開前 大きい