富士通は1月23日、在宅医療・介護向けのクラウドサービス「高齢者ケアクラウド」の提供を始めた(写真)。ITを活用して医師や看護師の業務負荷を軽減し、在宅医療・介護の質を向上させることが狙いだ。同社は2015年度までに1000事業者、累計60億円の売り上げを目指す。

写真●富士通が提供する「高齢者ケアクラウド」の利用シーン
患者宅などで高齢者の血圧などを測定してタブレットに情報を入力したり、医師の現在位置を把握して患者宅への訪問スケジュールを再調整したりできる
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 高齢者ケアクラウドは、複数のアプリケーションやシステムの総称だ。第一弾として1月23日から、医師や看護師の往診業務を支援する「在宅医療支援SaaS」を開始した。位置情報を基に最適な訪問スケジュールを策定したり、緊急時に患者宅から最も近い場所にいる医師を検索し、往診を指示したりできる。価格は月額7万円からで、初期費用として別途30万円必要だ。

 サービス提供に合わせ、患者や家族からの問い合わせを受け付ける「在宅医支援コンタクトセンターサービス」も開始した。看護師がセンターに常駐し、24時間体制で電話に対応する。「診療所の業務を効率化することで、医師とスタッフの分業体制を確立する。それにより、医師が患者と向き合う時間を最大化できる」と富士通の阪井洋之ソーシャルクラウド事業開発室長は話す。

 5月からは、診療所や訪問介護施設など複数事業所間で患者の医療情報を共有する「在宅チームケアSaaS」も提供する。医師や薬剤師、ケアマネジャーなどが訪問した患者宅で、脈拍などの身体状況や服薬状況を、タブレットなどに入力。クラウドで情報共有することで、連絡の負担を軽減したり、ミスを予防したりできる。

 内閣府の調査によると、2025年には国民の3割を65歳以上が占めるようになる。増え続ける医療費の抑制や、医師・看護師の有効活用といった観点から、国は在宅医療・介護の推進を打ち出している。電子カルテなど大規模病院向けのシステム開発案件が中心だったITベンダーにとって、新たな商機が生まれた格好だ。ここにチャンスを見いだしたのは富士通だけではない。

 ソフトブレーンは2012年12月、タブレットを活用した在宅医療支援システム「eケアマネージャー」を発売した。医師や看護師のスケジュールや往診履歴などを管理できる。2013年度に五つの医療機関への導入を目指す。

 調剤薬局大手の日本調剤も、患者宅でiPadを使って調剤履歴などを登録・参照できる「在宅コミュニケーション支援システム」を構築。全国約460店舗のうち約60店舗で活用を始めた。今後、在宅医療のIT化を有望視する企業の参入が増えそうだ。