本書は米マイクロソフト(MS)がわが世の春を謳歌し、米アップルが再建に向け苦闘し、サーゲイ・ブリンとラリー・ペイジが米グーグルを立ち上げつつあった1998年から始まり、2011年のスティーブ・ジョブズの死で幕を閉じる。著者は英ガーディアン紙のベテランIT担当記者で、取材と目配りともに申し分ない。

 この13年間はインターネットとモバイルが急激に普及した激動の時代だ。同時にビジネス面ではMSがその両方のトレンドに大きく立ち遅れることになった敗北の歴史だったことを本書は詳しく跡付けている。インターネットとモバイルの革命について勝者の側の記録はこれでもかというほど出版されているが、こちらは敗者の側を詳しく紹介する貴重な資料だ。

 たとえばMSの検索エンジン「Bing」は毎年巨額の赤字を計上し続けている。著者によれば「アメリカ市場におけるBingのトラフィックの大半はヤフーとの提携によるものだが、検索収入1ドルにつき90セントをヤフーに支払っている。(中略)1ドルの収入を得るために3ドルものコストがかかる」状態だという。

 元MSの上級プログラマーで著作家のジョエル・スポルスキー氏は著者のインタビューに対し、MSがインターネットで遅れを取ったのは「経営幹部が大学生だった頃にはまだインターネット接続がなかったからだ」と指摘する。またMSの幹部は担当部門ごとの業績に応じてボーナスを受ける仕組みで、インターネットのようにまったく新規の部門は当然業績がゼロだからボーナスもゼロになってしまう。こうした社内体制もイノベーションを遅らせた。モバイル化での出遅れは検索エンジン部門よりさらにひどく、現在Windows Phoneのシェアは事実上ないも同然だ。モバイル部門での失敗の詳しい経緯が本書の最大の読みどころだ。

 現代のテクノロジーの世界では最良のユーザー体験を提供できないものは確実に敗北する。本書ではそれが数々の実例で実感できる。

 評者 滑川 海彦
千葉県生まれ。東京大学法学部卒業後、東京都庁勤務を経てIT評論家、翻訳者。TechCrunch 日本版の翻訳を手がける。
アップル、グーグル、マイクロソフト

アップル、グーグル、マイクロソフト
チャールズ・アーサー 著
林 れい 訳
成甲書房発行
1890円(税込)