「ビジネスとITのギャップ」の問題を口にする人は非常に多い。少し古いデータになるが、アクセンチュアの調査によると、IT投資と経営目標の整合性がとれていると認識する企業は、日本ではわずか38%しかないという結果になっている(関連記事、アクセンチュアによるレポートでは米国では83%とされている)。

「ビジネスとITのギャップ」が日本ではとりわけ深刻

 もちろん米国においても「ビジネスとITのギャップ」の問題は重要なものであり続けているし、ビジネスアナリシスによって解決したい重要な問題の一つであることは確かだ。だが、とりわけ日本においては問題が深刻なようである。

 このビジネスとITのギャップにかかわる典型的な問題の例を、ロナルド・G・ロス(以下、ロン・ロス)は書籍「ITエンジニアのためのビジネスアナリシス」の中で、以下のように紹介している。

 ある自動車保険会社の既存のビジネスプロセスは、被保険者が事故に遭うと請求連絡センターに電話をかけ、損害の程度を連絡してから、車をセンターに持っていく。請求連絡センターは修理金額の見積もりをして、請求用紙を渡す。請求者は用紙を修理工場に持っていき、車の修理をしてもらう、というものであった。

 この会社が請求内容を分析したところ、なんと請求者の80%以上が正直に申告しており、修理工場の大部分も正直に申告していることがわかった。そこで誰かが素晴らしいアイデアを思いついた。正直な請求者からの単純な請求については、電話で請求連絡するだけで、車は選定して一覧にした修理工場に直接持っていけばよい。請求者にとってはステップが一つ少なくなるからうれしいし、請求連絡センターも業務負担が減るからうれしい。

 このアイデアを実現するためにITプロジェクトが始まり、有能なアナリストがITシステムへの必要な要求定義を行った。これは簡単な話で、請求者は新システムに住所を入力すれば、近くの認定修理工場全部にアクセスできる。そして工場は請求者の契約にアクセスできれば補償範囲がわかる。はたして6カ月後に、カラフルな市街地図を完備したすばらしい新システムが完成した。住所を入力しさえすれば、システムは半径Xマイルにある認定修理工場を全部指定してくれる。よくできている。最新機能が満載だ。

 ITプロジェクトチームは、役員のグループに対して、新システムを誇らしげにデモしてみせた。するとある役員が尋ねた。「会社が修理工場を提案して法的な問題はないのか」

 その後の調査の結果、この新システムには、法的な問題が絶対的にあることに加えて、コールセンター業務の負荷が実際には大幅に上がることがわかった。修理工場の紹介はできても、修理工場のサービスレベルの保証はできない。しかし修理工場がひどければ、顧客はコールセンターにクレームを上げてくるからである。

(「ITエンジニアのためのビジネスアナリシス」第2章の内容を要約)