「ベトナムと日本との間には何の障壁もない。安心してシステム開発を発注してほしい」。ベトナム最大のIT業界団体、ベトナム・ソフトウエア・アソシエーション(VINASA)のファン・タン・コン副会長は力を込める。

 日中関係が悪化する今、ベトナムのIT企業が日本に秋波を送っている。最大手のFPTソフトウェアなどを傘下に抱えるFPTコーポレーションのチュオン・ザー・ビン会長兼CEO(最高経営責任者)は11月中に訪日し、日本企業にトップセールスする。他のIT企業も開発受注に向けた日本での営業活動に乗り出している。

 ベトナム政府も後押しする。日本を含む海外向けにオフショア開発やITアウトソーシングを手掛けるIT企業に対する、新たな税制優遇策を立案中だ。情報通信省のグェン・タン・トゥェン情報技術部副部長は「日中関係を踏まえ、ソフト輸出の拡大につながる戦略を考える」と述べる。

 ベトナムのIT企業にとって、日本は「輸出先として最重要市場」(VINASAのコン副会長)だ。一方、情報処理推進機構(IPA)の「IT人材白書2012」によれば、日本企業が発注を検討している国の中でベトナムはトップ()。日越は相思相愛の仲だ。

図●日本企業におけるオフショア開発の意向・動向
[画像のクリックで拡大表示]

 にもかかわらず、同白書によればベトナムのIT企業にソフト開発を直接発注したことがある日本企業の割合は23.3%にとどまる。発注額で見ると、ベトナム向けは中国向けの30分の1しかない。

 実はベトナムのIT企業にとって、日中関係の悪化は千載一遇のチャンスでもある。ベトナムでは2011年初めに不動産バブルが崩壊。リーマン・ショック後の景気低迷も重なり、FPTなど一部を除けばIT各社の業績が低迷している。

 ベトナム商工会議所(VCCI)の会頭を務める国会議員のヴー・ティエン・ロック氏は、「IT分野に限らず、日越が国家レベルで戦略的な協力関係を築くことが両国のメリットになる」と語る。日本語の壁など乗り越えるべき課題はあるものの、日本企業にとっても中国リスク削減に向けた好機到来と言える。