ITproの男性読者は、ドクターシーラボの化粧品をよくご存じないかもしれない。ただ、女性向け商品のIT(情報技術)システムを支える男性幹部の話を聞けば、この会社に興味が湧いてくるだろう。

 eコマースグループ長の西井敏恭さんは、福井県に生まれ、大学院まで土木建設を専攻。もともと、ウェブとは程遠い経歴の持ち主である。

 2000年には、就職するはずだったゼネコンが海外事業から撤退すると聞いて入社を取りやめ、世界一周の旅に出た。その後、ネット関係の会社を経て、ドクターシーラボに入り、今に至っている。

 西井さんは、Eコマースのスペシャリスト。自分自身でリスティング(検索連動)広告をビッディング(入札)したり、SEO(サーチエンジン最適化)のコードを修正したりできる。2007年にドクターシーラボに入社後は、バナー広告の出稿やソーシャルメディアの取り組みなど、EC(電子商取引)事業全般を統括している。日々、データと闘い、CPA(Cost per Acquisition)を伸ばしている。

コラーゲンに詳しくてもソーシャルは知らない

 ただ、入社当初は戸惑った。コラーゲンに詳しい人はいても、ツイッターやユーストリームの認知度は低い。広報や宣伝も紙や店舗中心で、ウェブにも会報誌のようなチェックが入り、変更は3日前の確認が要求された。

 ウェブで3日待つことはあり得ない。早く出して、ユーザーの反応を見るのが常識だ。最初は何をしても怒られた記憶があるという。

 しかし、変化は結果がもたらしてくれた。ユーザーをセグメント(分類分け)して、タイトルや中身を細かくチューニングしたメールマガジンを配信。バナーのキャッチコピーなどをクリック率を見ながら、短期間で文言を変えるなど、紙や店舗の広告宣伝とは時間軸が違う仕事を進めた。

 そして、確実な顧客獲得や売上高の伸びで、結果が出た。最初は反対していた人たちも、今では「何とかするから頑張れ!」と応援してくれる。

 西井さんはドクターシーラボが化粧品のメーカーであることで、Eコマースがさらに大きな可能性を持つという。ドクターシーラボのマーケティング会議は、広報や商品開発、宣伝や通販など7部門が一堂に会する商品企画を意味する。

 通常の会社であれば「商品企画が考えた商品を、どうやってマーケティングしようか」という話になる。しかし、シーラボでは、できたものを売るだけでなく、ウェブで顧客の声を聞き、そこから商品やサービスを開発していく。

 従来とは逆方向の流れができつつある。Eコマースは奥が深い。


石黒 不二代(いしぐろ ふじよ)
石黒 不二代(いしぐろ ふじよ) ネットイヤーグループ社長兼CEO。名古屋大学経済学部卒業後、1981年ブラザー工業に入社。米スタンフォード大学でMBA(経営学修士)を取得。米シリコンバレーでコンサルティング会社に勤務し、99年にネットイヤーグループの設立に参画。2000年から現職。