日本最大級のゴルフの総合ポータルサイト「ゴルフダイジェスト・オンライン(GDO)」で、マーケティング部長を務める中澤伸也さんは、家電量販店のソフマップで長い間、店頭に立っていた経験を持つ。ネット系には珍しい小売業の“リアル店舗”の出身者だ。この経験が、ゴルフサイトに役立つのだから、ネットの世界は面白い。

 ソフマップが2000年に「クリック&モルタル」を掲げてEC(電子商取引)サイトをリニューアル。日本初の100億円の売上高を目指して、運営メンバーに任命された。

 その際に中澤さんが考えたのが、「買い物帳」と「持ち物帳」である。ソフマップには販売と買い取りの2つのビジネスがある。利用者が店頭やサイトで買い物をすると、購買履歴が「買い物帳」として登録され、同時に商品の現在の買い取り金額が表示される。

 自分の買い取り希望価格より上下すると、電子メールが届く。ソフマップで買っていない商品でも、商品名などで検索して、自分の持ち物帳に登録できる。売上高は約86億円を達成し、2001年に業界の賞を獲得した。

サイト訪問者の誘導は実店舗設計と同じ

 だが、サイト訪問者を分かりやすく誘導するUXD(ユーザー・エクスペリエンス・デザイン)の設計は困難を極めたという。シナリオなしでは要件定義ができないから、UXD後にワイヤー(画面設計書)を書く。

 その時、中澤さんの頭にあったのは、店舗設計のストラクチャーだ。売り場作りのゾーニングや棚、陳列、販売手法をウェブに当てはめた。中澤さんは「それしかなかった」というが、私は「それが一番正しい」と返した。

 そして2006年にGDOに入社。一番戸惑った瞬間だった。

 店頭では顧客の顔が見えるのに、GDOでは何も見えない。ソフマップでは、分からなくなるたびに売り場に行って、顧客を観察した。

 顧客のインサイトを知るマイニングはずっとやってきたが、「行動」が見えなくなるのは中澤さんには初めての経験。そしてサイトの訪問履歴を示す「ログ解析」こそ、その観察を行うツールだと気づき、それに飛びついていった。

 私が中澤さんを訪ねた一番の理由は、売り場経験のある人がGDOで「データマイニングチーム」という日本企業ではまれな部署を立ち上げたから。ネット業界ではウェブ解析はできても、総合分析であるマイニングの知識はない人が多い。

 しかし現実には、ユーザーの「行動」が分かるウェブ解析と、ユーザーの「本質」が分かるマイニングの2つを知らなければ、十分とはいえない。売り場でしたことをネットで行う中澤さんに、ネット専門家はもっと話を聞く必要がある。


石黒 不二代(いしぐろ ふじよ)
石黒 不二代(いしぐろ ふじよ) ネットイヤーグループ社長兼CEO。名古屋大学経済学部卒業後、1981年ブラザー工業に入社。米スタンフォード大学でMBA(経営学修士)を取得。米シリコンバレーでコンサルティング会社に勤務し、99年にネットイヤーグループの設立に参画。2000年から現職。