花王でウェブ技術のグループリーダを務める本間充さんは、ウェブ業界の顔ともいわれる。
北海道大学理学部数学科修士課程の時、指導教官から「勘はいいが、仕事はできないだろう」と評価された。この教官が会社に助言してくれたおかげで、花王に入社後は自由闊達な部署(技術研究室)に配属された。
インターネットが商用化する以前の入社だが、研究室で、電子メールを使ったり、米国政府機関が配布していたウェブブラウザーとウェブサーバーのプログラムを使ったりと、好きなことをしていたら、会社で一番インターネットに詳しくなった。
「自分は足を引っ張る存在だから」と、本間さんは転部を希望し、異動した先が広告クリエーションの部門。ここでも、他部門が担当するバナー広告を自分で企画したり、代理店を通さずに仕事をしたりするアウトロー的存在だった。
次は広報部主管のコーポレートサイトの立ち上げに指名されて参画した。そこでも存在感を示し、最後には幹部が腰を上げ、予算案に入っていない「ウェブ戦略室」が立ち上がった。
2012年はビッグデータの幕開けの年だった。今までのマーケティングモデルはテレビコマーシャルのような予測型で、コマーシャル枠も買い付けが数カ月前なので、PDCA(計画・実行・検証・見直し)サイクルが回しづらい。
即時にデータが取れるのが面白い
しかし、デジタルマーケティングでは即時にデータが取れる。ソーシャルメディアやブログの解析をすると、テレビコマーシャルの放映後に、どの言葉が印象に残ったかなどが分かる。また、どんな言葉を検索エンジンに入力して、サイトに訪問してもらえていたかも分かる。ソーシャルメディアのデータ、テレビなどのデータ、広告データと、今まで取れなかったデータがコントロールできるようになる。すごいツールだから、先に仕掛けたものが勝つ。
私が「データ分析となると、今までのマーケッターができますか?」と聞くと、本間さんは「そこなんだ。マーケティングにエンジニアが飛び込んでくれないと、今回の壁は壊せない」と答えた。
日本企業の情報システム部門は、工場の生産性をシステム構築を通して、現場とともに1円単位で向上してきた。マーケティングでも同じ手法が使えるのではないだろうか。
つまり、興味の範囲や属性など微に入り細に入り議論して、抽出したデータを検証し、宣伝効果を最大限に高めるのだ。
そのためには数限りない分析が必要で、今まで蓄えた情報システムの制御の知恵がマーケティングに必要なのだ。「エンジニアよ、ここに来てくれ!」。本間さんが叫ぶ。