これまで本欄で紹介した書籍の中で、ITから最も遠そうに見える一冊である。「汚いもの反対同盟」の一員だと名乗り、米国で最も急成長している洗剤メーカーのメソッドの創業者2人が、同社の躍進を支える七つの「こだわり」をまとめたものだ。

 352ページ中、ITにかかわる記述は7カ所で、そのうち企業情報システムへの言及は2カ所に過ぎないが、次のような一節がある。「ITの活用についてもデザイン思考が働く。流通を管理するハードウエアやソフトウエアに改良を加えるとき、それがどんなにささいな改良であっても、クリエイティブな解決法を探す意識があれば最善の成果が得られる」。

 と言うわけで「ITの活用」で「最善の成果」を得たい人は本書を読むべきだ。ITは出てこないが「洗剤」という単語を「情報システム」に置き換えて読み進めばよい。著者は「他人の創作の一部を取りだし、それを新たな分野、あるいは意外な用途に再利用する」ことを勧めている。実際、本書に出てくる数々の工夫について、著者2人は他分野の企業や経営者から「程度の軽い盗用」をしたと書いている。

 七つのこだわりとは「顧客体験重視」「そのためのデザイン思考」「顧客や取引先、社内の異なる部門を交えた協業」「価値観重視の文化」「持続性を考慮した製品開発」などだ。「デザインについて語るとき、僕らは(中略)システムのデザインを含めて考えている」とある通り、デザインを広義に捉えており、ITに携わる人にも参考になる。

 「ITの仕事は言われた通りに間違いなく開発、運用すればそれでよく、創造性などは不要だ」と居直る人がいたら「僕らの製品はチームメンバー全員の情熱でできている」という著者の言葉を贈りたい。「全員の情熱」が乏しい状態でいくら管理を強めても、いつの日か間違いを起こすに違いない。

 メソッドは「クリエイティブな活動はすべて社内で行うべき」として、製品の研究開発から容器のデザイン、原材料調達、コールセンター運営、Webサイト構築、広告コンテンツ制作などを社内で手がけ、製造と物流をアウトソーシングしている。ITについて明確な記述はなかったが、先に引用した下りを読む限りITの業務も社内でこなしているだろう。

メソッド革命

メソッド革命
エリック・ライアン、アダム・ローリー著
須川 綾子 訳
ダイヤモンド社発行
1890円(税込)