ネットの活用を阻んでいた国内の規制が緩和へと加速している。

 最高裁判所は2013年1月11日、副作用リスクの高い医薬品の対面販売を義務付けた厚生労働省令を無効であると判断。原告である医薬品ネット販売のケンコーコムなどは同日、胃腸薬や風邪薬など禁止されてきた医薬品のネット販売を3年半ぶりに再開した()。

表●ネットに関わる規制の現状と規制緩和の動き
[画像のクリックで拡大表示]

 ネットを活用した選挙活動も解禁に向け動き始めた。安倍晋三首相は就任会見で、選挙活動における「ネット活用の解禁を目指したい」と発言。早ければ13年1月28日に招集予定の通常国会で公職選挙法の改正法案が提出され、今夏の参議院選挙から解禁される公算が出てきた。

 IT企業などで構成する経済団体の新経済連盟(代表理事は三木谷浩史楽天社長)は以前からこれら二つの規制に反対しており、今回の動きを歓迎している。安全に医薬品を販売する仕組みや、選挙活動でのなりすまし防止策など、IT需要にも期待をかける。

 医薬品の規制を巡る最高裁判決の骨子は、(1)ネット販売の一律禁止は憲法が保障する「職業活動の自由」を過度に制約する、(2)薬事法にはネット販売禁止や対面販売の義務化を明確に示す条文がなく、これらを規定した厚労省令は無効、というもの。恣意的な裁量行政を排除したほか、「ネット販売は危険」という固定化した見方を否定したことが大きい。

 ケンコーコムは薬剤師7人を抱え、メールや電話、ビデオ会議などで利用者の症状を聞いて適切な薬を選ぶなど、十分な問診を実施していると主張してきた。会員ごとに販売履歴を管理し、適切な服用量を超える利用者には商品を販売しないといった措置も講じているとする。「注文を受けた薬の成分から副作用リスクを洗い出し、それを基に薬剤師が販売可否を判断している」(後藤玄利社長)。

 今回の判決を受け、流通大手のほか店舗網を持つ一部ドラッグストアチェーンもネット販売の準備を進めている。「薬剤師を抱えている既存店舗ほど参入しやすい」(ネット業界関係者)。その際には、利用者ごとに問診の内容や購入履歴を管理し、安全に医薬品を販売するための薬剤師向け支援システムが必要になる。これがIT投資につながりそうだ。

 一方、選挙活動でのネット活用は、立候補者の意見表明や宣伝活動の手段を制限した公職選挙法の改正が焦点になる。改正案は、選挙活動用特設サイトの運営や「Twitter」などソーシャルメディアの活用を認める公算が大きい。

 一部のネット企業が期待するのが、立候補者が本人性を証明できる電子認証サービスや、ネット献金向けの送金サービスだ。例えば、電子認証は法人登記を用いず、選挙事務所の所在や電話番号を確認して取得できるようにする。