10年後の社会を想像してみてほしい。昼にネットでモノを頼めば、数時間で届くような緻密な物流網が全国規模で構築されているはずだ。自宅にいながらいつでも新鮮な食材が届き、楽しい食卓を潤わせていることだろう。見る人によって違うTVコマーシャルが流れ、そこに映し出されたものはその場で買えるようになっている。

 こうした社会システムは何によって可能になるのか。間違いなくITの力が大きい。より的確にいえば「エンタープライズIT」である。多くの読者は企業システムに携わる技術者だと思う。そう、皆さんの力によって社会は大きく変わる。豊かで平和な未来の情報社会は、私たちエンタープライズ技術者(ITエンジニア)が創り上げていくべきものだと思う。大志を抱き素晴らしい社会システムを創発する。そんな素敵な仕事が私たちを待っている。

 しかし、足元を見れば、ITエンジニアの置かれている状況は明るくない。未来と現在のこのギャップは何が理由なのだろうか。

 ここに一つの数字がある。情報処理推進機構が平成23年3月に発表した調査報告書によると、日本のITエンジニアは75%が受注側なのである。発注側で活躍しているITエンジニアはたった25%。米国は反対に発注側が全体の72%を占めている。

 今の日本のIT産業は、受注側のITエンジニアが多く、多重請負構造で成り立っている。これはつまり、大多数のITエンジニアはビジネス現場から遠いところで仕事をしていることを意味する。この状況を変えることが、先に紹介した素敵な仕事への第一歩になると、筆者は思う。それには、新しい技術を身に付け、最前線に出て行くのが一番だ。

 専門化しすぎた分業制も問題だ。プロマネ・要件定義・開発・テスト・運用保守など一つの役割に人材を固定化しすぎると、他の役割を担えなくなってしまう。5年もすると応用が効かない人材になってしまうこともある。変化の激しい時代では致命的だ。

 これからの時代、ITが分からなければ経営戦略を実行できない。言い換えれば、ITエンジニアがビジネスと業務を理解すれば大活躍できるということだ。「人月作業」をしているようでは、ITエンジニアの価値はどんどん下がっていくだけだ。求められているのは300人の烏合の衆ではなく、3人のプロフェッショナルなのだ。

 シリコンバレーでは次々とベンチャーが起業している。エンタープライズITの分野でも、たくさんの企業が生まれ成長している。どれもIT無しではあり得ないビジネスだ。ゼロから価値を創り上げ、売り上げと雇用を増やし、利益を上げて税金で社会に還元する。これこそ経済成長そのものである。そこで働くITエンジニアは光り輝いている。最前線の現場はいつでも誇らしげで前向きで、スリリングで熱意にあふれる世界である。

 本連載の1回目にあたり、筆者の思いを書かせていただいた。日本のITエンジニアは優秀だ。問題は環境にあるのなら、皆で変えていこう。リスクを取ってでも面白い誇りある仕事。それをこれからの私たちの仕事にしようではないか。インパクトのある技術は大歓迎。世の中を技術で変えていくことがITエンジニアの使命だ。

 さぁ、始めましょうか。

漆原 茂(うるしばら しげる)
ウルシステムズ 創業者兼代表取締役社長。2011年10月よりULSグループ代表取締役社長を兼任。大規模分散トランザクション処理やリアルタイム技術を中心としたエンタープライズシステムに注力し、戦略的ITの実現に取り組んでいる。シリコンバレーとのコネクションも深く、革新的技術をこよなく敬愛している