従来の基幹系システムやバックオフィス系システム(メール、グループウェアなど)にモバイルが加わる状況の中、エンタープライズモバイルが持つ複雑性や導入における様々な課題に対して、「業務」「システム」「組織」の観点で必要となること、IT部門がなすべきことを述べてきた。

 最終回の今回は、IT部門として今後目指すべき姿について述べる。

IT部門が今後要求されること

 今後のIT部門は、モバイルを前提とした業務プロセスの創造とシステム基盤の構築を利用部門に提案できることが要求される。

 それは、エンタープライズモバイルが業務活用や生産性の向上に寄与するものとして期待されていることを(潜在化している場合も含め)理解しつつ、業務の本質とモバイル・デバイスの本質の両面を理解し、利用部門に対して、モバイルを活用した新しい働き方の姿やそのための業務改革を提案できるということである。

 加えて、モバイル・デバイスの活用は、経営と現場の新たな関係を創り出すことも認識する必要がある。

 現場から経営までをつなぐ情報のリアルタイム化が進むことで、場所/時間的な距離が縮まり、現場で起きていることをそのタイミングで経営が判断し、現場にフィードバックするなど、情報が早く組織にリーチするようになる。

図1●モバイル・デバイスの活用による経営と現場の新たな関係
図1●モバイルデバイスの活用による経営と現場の新たな関係
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 業務プロセスを創造するためには、「人の活動に合わせた業務で捉える」こと、「モバイルありきで業務プロセスを創りあげる」こと、「業務を点と面(流れ)でとらえる」ことが重要となる。

 実際には、モバイル・デバイスの特徴を捉えつつ、世の中の先進事例、外部の有識者の知見、現場の意見やアイディアなどを収集し、それを自社の業務に当て込み、新たな業務とシステムの形を設計していくこととなる。

 それにより、これまでのような課題解決型の要件定義のやり方そのものを変える必要も出てくる。

 それをIT部門に閉じた形で実現していく事は現実的ではなく、外部を含めた多くの関係者を巻き込みながら実現していくことが重要となる。IT部門はそれを推進していく必要がある。

 一方で、利用部門に提案できるIT部門であるためには、エンタープライズモバイルの世界だけでなく、当たり前のこととなるが、モバイルで何を実現するのか、その目的や効果は何なのか提示できなければならない。経営層に対しては、意思決定判断スピードの向上を訴求し、営業部門に対しては、現場の利便性や生産性の向上を訴求するなど、経営層と現場の両方の目線で訴求することが重要となる。

 例えば、経営層に対しては、モバイルを業務に活用することにより、経営と現場の関係が近くなり、従来とは異なる意思決定ができるようになることを説明し、理解してもらうことがポイントとなる。

 また、多くの紙ベースの企画書や報告書が持ち込まれていた会議から、タブレットを活用することで、ペーパーレスによるコスト削減を目的とした会議に変えた例などは多く見受けられるが、とある企業においては、合わせて長い文章ベースの報告から論点だけを箇条書きにした報告に変えたことで会議の進行がスムーズになったという。

 この場合、単にタブレットを活用したペーパーレス会議の実現とするのではなく、報告方法も変えた従来とは異なる会議スタイルへの変化が訴求ポイントとなる。