写真●記者が所有している電子書籍端末の一部 すべて仕事と関係なく個人的に購入したものだ。自宅内で行方不明のため写真には写っていないが、2004年発売のパナソニック製「ΣBook」など大昔のものも含めて、他に数台所有している(ちなみにこんなに持っていることは妻には内緒だ)。
写真●記者が所有している電子書籍端末の一部 すべて仕事と関係なく個人的に購入したものだ。自宅内で行方不明のため写真には写っていないが、2004年発売のパナソニック製「ΣBook」など大昔のものも含めて、他に数台所有している(ちなみにこんなに持っていることは妻には内緒だ)。
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 遠い宇宙のかなたから、現代地球人の生活を超高性能な光学望遠鏡でつぶさに観察している宇宙人がいたら(物理的に実現可能かどうかはさておく)、おそらく彼あるいは彼女はこんなことをつぶやくのではないだろうか。「おやおや、地球人はまだ紙とインクを使って作られた本を読んでいるぞ。なんて時代遅れで原始的なメディアを使っているんだろう」---。

 記者に言わせれば、この宇宙人は不幸である。紙の本の素晴らしさというものを知らないで生まれ育ったために、「紙の本は電子書籍より劣るメディアだから廃れた」などという誤った認識を持つに至ったかもしれないのだから(ただし、この予測が間違っている可能性もある。後述)。他の惑星はともかくとして、いずれこの地球でも、自分の子供を含めて同じように考える人ばかりになってしまうのだろうか。記者は最近、こんなことを少し心配している。

 このように書き出すと、「結局出版社の社員が、電子書籍ではなくもっと紙の本を読め、と主張したいだけか。中の人、必死だな」などと言いたい人もいるかもしれない。しかし、それは誤解である。記者は紙の本が大好きだが(毎月数十冊単位で買っている)、電子書籍も“かなり”好きだからだ(写真)。

電子書籍の普及を阻むハードルは既にほぼなくなっている

 記者が紙の書籍と電子書籍のどちらを好きかなど、さしたる問題ではない。重要なのは、2013年という年が「紙から電子書籍へ」と大きく動き出す最初の年になるだろうということであり、その流れの先には紙から電子へと主役がバトンタッチする「電子書籍全盛時代」が待ち受けているだろう、ということだ。

 そう遠くない将来、紙の本が一般向けに市販されることがほぼなくなり、「文化的遺産」としてのみ残るような可能性も十分ある。そうはならない(紙が主役であり続ける)という意見もあるだろうが、町の書店数が減り続け、出版業界全体が縮小している現実を見る限り、記者にはそうは思えない。

 では、そもそもなぜ2013年に電子書籍への移行の流れが本格化すると言えるのか。理由は簡単。2012年末までに、そのための下準備がほぼ完了したからである。電子書籍先進国である米国に一歩半くらい遅れている感がある日本でも、年末までに米アマゾンのKindleシリーズをはじめ、BookLive!Reader Lideo(BookLive)やkobo(楽天)、Reader(ソニー)など、安価で電子読書に必要十分な性能(注:現状での話)を備えた専用端末が出揃った。

 専用端末以外でも、Nexus 7(米グーグル)やiPad mini(米アップル)など手軽に持ち運んで電子書籍を読める、低価格なタブレット端末が続々登場している。電子書籍の普及を考えるうえで忘れてはならない重要な要素である「電子書籍ストア」でも、2011年までとは比べ物にならないスピード感で品揃えが充実し始めている。

 さらに、電子書籍の普及を阻害する要素の一つである「端末や電子書籍購入代金とは別に、通信回線の契約や通信費用の支払いが必要」という課題も、無料の3G通信やWiMAX通信機能付き専用端末が年末にかけて相次いで登場したことで、一気にクリアされた。

 「快適に読書できる安価な端末」「充実した品揃えの電子書籍ストア」「通信費用を気にせず購入して読める手段」という3要素が揃ったことで、電子書籍の普及を阻むハードルは、ほぼなくなったと言えるだろう。これだけ条件が揃っているのに、前進しない方がおかしい。