日経情報ストラテジー編集 副編集長 小林 暢子

 「来期は本気で事業を作るぞ」。ヤマトホールディングスでCIO(最高情報責任者)を務める小佐野豪績執行役員は、2012年11月、ITや経営戦略部門のマネジャーを集めた会議でこうぶち上げた。「ITでドライバーや営業所の業務を効率化することは大切だが、それだけを目標にするな。ITプラットフォームを最大限に生かしてどう収益化できるかを、しっかり考えてほしい」。

 小佐野CIOは2012年、日経情報ストラテジーが選ぶ「CIOオブ・ザ・イヤー」に選出された(関連記事:第8次NEKOシステム構想を明らかに)。現在「NEKOシステム」と呼ばれるヤマト運輸の基幹システムの刷新に取り組むが、狙いはヤマト運輸やグループ各社の業務効率化やサービス向上にとどまらない。ITシステムを他社にも提供し、ITを中核に新たな事業を生み出そうとしている。

中抜きされるか、イノベーションの中核になるか

 CIOは企業の情報戦略立案と実装の責任を担う。しかしそうした役割の定義は変化し始めている。

 役割と権限がより大きくなるプラス方向への変化としては、ITと全社の業務プロセスを知る立場を生かしてイノベーションのけん引役を担うことが挙げられる。トヨタ自動車でCIOに相当する友山茂樹常務役員は、日経情報ストラテジー2012年6月号のインタビューで「CIOのIはイノベーションだ」と指摘した。

 かつての基幹事業がグローバルな競争激化や技術革新で強さを失うなか、イノベーションを起こして新たな事業領域に乗り出したり、ビジネスモデルを抜本的に改革して収益性を高めることは多くの日本企業の喫緊の課題となっている。CIOでありながら、イノベーション推進本部長も務める東芝の須藤亮執行役専務のような例もある。

 逆に役割と権限が縮小する可能性もある。従来は社内のIT部門に業務システムの開発や運用を委ねていたユーザー部門が、ITベンダーに直接発注するケースが増えれば、IT部門は「中抜き」され、存在意義も予算も失ってしまう。

 以前からこうした事例はあったが、スマートフォンやタブレットの企業導入が進むなかでますます拍車がかかっている。スマホやタブレットでクラウド型のサービスを使う分には、IT部門に頼る必要は無い。セキュリティーリスクなどを見過ごす危うさはあるものの、手軽に始めてすぐに便利さを実感できる点ではユーザーのメリットは大きい。

 存在感を高めてビジネスの中核に躍り出るか、中抜きされて縮小するか。IT部門とCIOは正念場に差し掛かっている。