日経SYSTEMS編集 記者 矢口 竜太郎

 「初めてPM(プロジェクトマネジャー)を担当した企業で、その企業の業務の最初から最後までを必死になって学んだ。この経験がその後の私のPM人生を大きく変えた」。先日取材したあるPMはこう話した。

 そのPMにとって、最初に担当した企業の業務が「基準」になった。以来、同業他社や別業界の企業のPMを受け持つことになっても「差分」で理解することができるようになったというのだ。

 このPMが最初に担当した企業は人材派遣業だった。人材派遣業の業務はおおまかに言って次のようになる。まず顧客企業から人材派遣の依頼を受ける(案件管理)。次に登録しているスタッフのなかから適正に応じて派遣する者を抽出する(スタッフ管理)。スタッフの派遣について顧客と合意する(契約管理)。実際に派遣した後は、スタッフの勤務状況を管理する(勤怠管理)。最後に顧客への請求と給与計算を実施し、両方のデータを会計システムに入力する。

 他企業の業務を理解する際に、このPMは先ほどの流れ(実際にはより詳細なもの)を思い出し、どこが同じで、どこが異なるのかを意識しながらヒヤリングしているという。例えば、新たに担当した企業がホテル業であれば、「スタッフ管理」の部分を「空き部屋の管理」に置き換えて理解する、といったことだ。「差分に着目することで、ヒヤリングの質も効率も高まる」とそのPMは言う。

 このように、最初に「基準」を整理し、その後は「差分」で対処していくことは、エンジニアにとって基本ではあるものの、とても重要な考え方だと思う。これを意識して実践するかしないかで、成長に大きく差が出るのではないだろうか。先のPMの例は、業務知識の習得の仕方についてだったが、基準と差分の考え方は、さまざまな場面で有効だろう。

基準になる情報を伝えたい

 ITエンジニア向け雑誌である「日経SYSTEMS」を担当する記者としては、「読者にとっての基準になる情報」をより多く伝えたいと思っている。記事を通じて読者自身の基準を作っていただき、その上で各自が直面している案件固有の事情に差分として応用してもらいたいのだ。「あの記事に書いてあったことを参考に、自分なりにアレンジして実践した」というイメージである。

 例えば、昨年記者が担当した記事に「クラウドの勝ちパターン」という特集がある。これはクラウドを使用したシステム構築において、アーキテクチャー設計におけるパターンを、取材を基に作成したものだ。クラウド活用において「基準になる知識」を作り、伝えることを狙った。