日経コミュニケーション編集 記者 堀越 功

 ソフトバンクによる米スプリントの買収など、通信業界にとって激動の年と言えた2012年。記者が最も印象に残ったのは、昨年のちょうど今頃に発表されたKDDIの3M戦略の第一弾「スマートパスポート構想」だった。通信事業者のこれからの戦略として多くの可能性を感じたからだ。「ゲームチェンジする」という宣言から1年がたち、では実際に何が変わったのか。事業者間競争の視点、ユーザー環境の視点、そして今後の流れという視点で影響を分析してみたい。

 まず同社が「ゲームチェンジする」といった意図は(関連記事)、これまでのモバイル中心だった回線獲得モデルを、「FMC(Fixed Mobile Convergence)+バリュー(付加価値)型」に転換する方針を指す。auスマホと提携固定事業者のブロードバンドサービスをセットで契約することで最大2年間スマホの料金を月額1480円割り引く「auスマートバリュー」は、単なる割引サービスではない。上記の方針に沿って、提携事業者とクロスセルを進めて低コストで新規ユーザーを開拓し、モバイルと固定をセットでARPU(契約当たり月間平均収入)向上を目指したモデルと言える。

 KDDIのスマートパスポート構想のもう一つのベースとなる「auスマートパス」は、月額390円で500本のアプリがダウンロードし放題になるサービスだ。こちらは付加価値ARPUを積み上げる起点としての狙いがある。auスマートパスの拡充に合わせて、ビデオパス、うたパス、ブックパスといったコンテンツ系サービスも増やしている。

 auスマートバリュー、auスマートパスという3M戦略のベースとなるサービスは、ここまで順調に推移しているようだ。開始から半年以上が過ぎた2012年9月末段階で、au側のスマートバリュー適用契約数は200万を突破。固定回線側のスマートバリュー適用世帯数は120万となった。この数字は、KDDIの目標値である2012年度末のauスマバリ適用契約数310万、固定側のスマバリ適用世帯数155万を十分クリアできる水準だ。採算の面でも、新規ユーザーの比率が採算ベースの目安を超えているという。

 auスマートパスも、当初採算分岐としていた400万ユーザーを2013年1月2日に突破したという。もっともiOS版のスマートパスは、4月末まで無料キャンペーンとしているため、実際にはまだ採算は取れていない。