「何としてもやってもらわなければ困る」「すみません、このプロジェクトはうちではできないんです」―。

 NTTデータの中村哲也氏(ソリューション&テクノロジーカンパニー ビジネスソリューション事業本部 BPOビジネス推進室 課長)はかつて、ユーザー企業A社のあるプロジェクトを断るため、こんなやり取りをした。

 そのプロジェクトは、もともと受けるつもりだった。しかし調査を進めると、要件が複雑になりそうな見通しで、ユーザー企業側の検討は進んでいなかった。しかも画面のデザインに対するこだわりが強く、その上、短納期・低コスト。未経験の分野だったこともあり、リスクがあまりにも大きかった。社内ではこのプロジェクトは受けられないという決定に至った。

 中村氏がA社に出向いて、断りたいという旨を遠回しに伝えようとしたところ、その意図に気付いたA社のシステム部の担当者は怒り心頭に発した。慌てた中村氏は何とか取り繕うとしたが、聞く耳を持ってもらえない。ひたすら頭を下げるしかなかった。

 結局、その日に断ることはできず、後日、中村氏は何度もA社に足を運んだ。粘りに粘って何とか断ることができたが、「おたくにはもう二度と発注しない」と告げられた。

きちんと断れば逆に信頼される

 ITエンジニアにとって「断る」という場面は多い。中村氏のようにプロジェクト案件を断るケース、プロジェクト中に機能追加や仕様変更を断るケースなどだ。利用部門からの要求だけでなく、上司や先輩から仕事の依頼が次々に舞い込み、それを断るという場面も少なくないだろう。

 もちろんそうした要求や依頼をすべて引き受けられれば、それに越したことはない。しかし無茶な依頼だったり、引き受けられない事情があったりすれば、何とかして断らざるを得ない。

 「無茶な依頼を背負い込むITエンジニアは、いつかつぶれてしまう。プロジェクトが破綻するケースもある」。こう指摘するのは、さくら情報システムの藤森真宏氏(サービス事業本部 事業推進グループ 部長)だ。藤森氏は「突っぱねてはダメ。中途半端に断ってもダメ。円満かつ明確に断らないとトラブルになる」と、断ることの難しさを打ち明ける。

 冒頭で登場した中村氏はその後、苦い経験を糧にして、断る技術を磨いていった。今ではA社とも再び取引しており、良好な関係を維持しているという。「できないことはきちんと『できない』と断ることが大事。うまく断れると、逆に相手から信頼されるようになる」と中村氏は強調する。

 ではどう断ればいいのか。断り方の基本的なテクニックを見ていこう。