東日本大震災からまもなく2年が経過する。大震災は、インターネットが市民生活に欠かせなくなっている先進国で最初に起こった、大規模で広域かつ複合的な災害であろう。大震災からの教訓を今後のICT活用政策に生かすことは、日本に限らず世界的にも大きな意義があるはずである。

 一方で大震災以来、企業・団体の多くのICT部門の関係者にお会いしたが、東京から各種情報を通して見える被災地の状況と被災地の実感とは異なっていると感じることが多い。実際に起こったこと、そこからの課題と対応について、現地から提起しないと、今回の体験が今後のICTの現実的な災害対応力の向上・発展に結びつかないのではないかとの危惧(きぐ)を抱いている。

 被災地、被災者としての経験を基に、筆者の勤務する仙台市だけなく被災地全体の状況も踏まえながら、自治体のICT分野を中心に、大震災で発生した事象とそこからの課題、現在までの対応の方向性について、地震発生直後から1週間程度の期間を時系列で整理した。なお、本稿の記述は、すべて筆者の私見である。

発生した事象と課題、対応の方向性

1.地震直後・津波到達前

(1)津波情報の住民への伝達が不十分
 東日本大震災の死亡・行方不明者は約2万人であり、ほとんどが津波による。津波の人的被害を回避する方策は、高所への速やかな避難である。住民に津波の情報を伝え避難を促すことが、自治体として最初にやるべきこととなる。

 自治体からの避難情報の主な伝達手段としては、防災行政無線(同報系)がある。しかし総務省の調査によれば、津波で浸水した地域でも拡声子局(スピーカ)からの音声案内が聞こえなかったとする人が35%存在した。できるだけ多くの住民に確実に情報を伝える手段の確保と、対象地域の拡大が課題と考えられる(表1)。

表1●地震直後・津波到達前の事象と課題
発生した事象 解決すべき課題 対応策の進捗状況
(1)津波情報を伝え切れなかった ・情報伝達手段の拡大 ・携帯3社による緊急速報メールの開始(改善)
・緊急速報メールに掲載できる情報範囲の拡大、ホームページとの連携などが今後の課題
・防災行政無線(同報系)で使用する聞き取りやすいスピーカーなどの研究開発が期待される
・既存の防災行政無線機器を活用したより高度な情報伝達手段の研究開発が期待される
(2)津波情報が避難行動に結びつかなかった場合があった ・避難情報と避難行動の連動 ・情報を避難に結びつける防災教育と避難訓練の一層の充実(自治体ごとの対応)

 音声案内が聞こえなかった原因としては、地震の影響で放送装置が作動しなかった、スピーカの音声が聞き取りにくいなどが挙げられている。聞き取りやすいスピーカの研究開発などが期待される。また、多くの自治体では防災行政無線(同報系)が設置済みであるため、既存の機器を活用したより高度な情報伝達手段の研究開発が求められる。

 現時点での改善点としては、2012年(平成24年)に携帯電話事業者3社による緊急速報メールサービスが提供されるようになったことが挙げられる。現在、携帯電話の所有率は約9割であり、携帯電話のサービスエリア内にいるほとんどの人に必要な情報を素早く伝える新たな手段が確保されたことになる。

 今後は、自治体が災害関連で同サービスを利用できる範囲の拡大、より詳しい情報を伝達できるホームページとの連携などについて、検討が進むことを期待したい。

(2)避難情報が避難行動に結びつかなかった
 過去の調査では、大津波警報が出ても4割程度の住民が避難しなかったとの結果がある。被災者の話から、今回も津波の情報を知りながら避難しなかった住民がいたようだ。つまり、避難情報が避難行動に結びつくようにすることが課題である。

 避難情報の伝達だけでなく、情報を避難行動に結びつける防災教育と避難訓練の一層の充実が自治体に求められている。